劣等感

□不幸の上に咲いた七色の虹
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私は、不様な人間に成りたくは有りませんでした。
昔、引っ越し屋で仕事をしていた事が有りまして、私の勤めた営業所の上司が、冗談で、火の着いた煙草を私の手の甲に近付けました。
煙草が、手の甲に近付くに連れて酷い熱さを感じましたが、『熱いっ!』と慌てふためく事は、余りにも不様でしたので、平静を装いまして、結局、手の甲に煙草の火を付けられ、痛みにも似た熱さを味わって仕舞いました。
私は、『熱いです。』と笑顔で、そして平然と上司に言いましたが、その上司は『何だ、お前。』と言い返し、面白く無さそうに私から目を逸らしました。
私はきっと、平和な日常に歩道を歩いていて、急に大型車が突っ込んで来ようとも、逃げる事はせず潔くそのまま轢かれる事でしょう。現に、私が中学生の頃には、不良達に目を付けられて居り、彼等は必ず、放課後に校門の前で私を待ち、暴力を奮おうとしていました。
勘の鋭い私は、そう言った自分の危機には直ぐに気が付くのですが、それでも、殴られるより他有りませんでした。逃げれば助かります。然し、逃げる事は不様に値します。
私は又、衣服を買う際にも、試着と言う行為が余りにも不様に感じ、試着はせずに気に入った物を即決で購入致します。一応、大小等は確認致しますが、人間らしい羞恥を曝す事は私に取って、矢張り不様以外の何物でも有りませんでした。
後々に後悔をする事が多かったのですが、不様に成るよりは遥かに、後悔をする方が良いのです。

その日は美嘉と、私の尊敬する歌手の公演を観に行く予定が有りました。
当初は一人で行くつもりでしたが、私が一人で講演会場に行き、万が一でも不様な醜態を曝して仕舞ったら…と思うと、私は不安で仕方が有りませんでしたので、美嘉を、交際が始まる前から誘って居り、そして待ちに待ったこの日が、遂に訪れました。
早く公演を観たい。それ以上に、美嘉に会いたい気持ちが強かったのを、微かに覚えて居ります。
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