劣等感

□奇妙な贈り物
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私はその小指が入った木箱を書斎に運び、机の上に乗せて暫く眺めていた。矢張り、何処からどう見ても人間の、しかも女性の小指だろうか、酷く寒気がしたが、私は冷静だった。そして、胸が高鳴り、それはまるで恋愛の時に感じる様な、あの高揚にも似ていた。
この小指は本物、贈り主は私を驚かせたい、性質の悪い悪戯、気にする事は無い、いやいや、これでは話が終って仕舞う…等と、推理をしてみたがまるで駄目。その昔、名探偵を目指していた頃も在ったが、私はどうもその道には向いていない様だ。
それにしても普通の人間ならば、この様な奇妙な贈り物が届けば直ぐに警察を呼ぶであろうし、私の様に此処まで検証をしない。が、私は拙い自分の推理を楽しんでいた。
この小指が届けられて約三時間、私はひたすらこの小指の意味を見出だそうと頭を使って見たが、矢張り真実には到達せず、けれど警察に届ける訳でも無く只、小指を眺めていた。
時間ばかりが過ぎた。そして夜が訪れ、大雨も止み、外にもこの書斎にも静けさが溢れた。
無だ。何も感じない無。車の音も人の声も、何も聞こえない。
飾って在る時計は、私が神経質で、眠れない夜に秒針が酷く耳に障った為に、全てをデジタルに変えた。時計の音も無い。非常に静かな夜だ。
私は瞳を閉じて駄目な推理に再度、取り掛かってみた。そして、やがて淡い眠りに就いた。

ピンポーン。
勢い良く鳴った呼び鈴に、私は跳び起きた。誰だ、この時分に。
私は玄関に行き、覗き穴を覗き込んだが誰も見えなかった。
ああ、と言う事は贈られて来た小指と、何か関係が在るな、と思い用心をして、玄関に立て掛けて在る何本もの傘の中から一つを取り、扉を開けた瞬間に何者かが襲って来たら、この傘の尖端で突き刺してやろうと考えた。だが、扉を開けても誰も居ない。
悪戯だ。性質の悪い悪戯。あの小指だって、映画か何かに使う本物に限り無く近い偽物だろう。そして、この呼び鈴も誰かが、所謂ピンポンダッシュをしたに過ぎない。下らない。あの小指を捨てて、今日は本でも読もう。まるで興が醒める。
と、扉の下に何気無く目をやると、小さい木箱が在り、私は嫌な予感がした。
焦っていた。その場で木箱を開けた。
中に入っていたのは、歯。血の付いた、抜いたばかりに見受けられる、小さな歯だった。
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