劣等感

□無色透明
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 それから数ヶ月が経って、僕は文字通り破滅していた。
 あの白い粉を手渡され、それを身体に摂取して人間をやめた数日後に、あの黒づくめの男を探しに夜の街へ出た。二時間程雑踏を彷徨し、漸くその男を発見する。僕は白い粉をくれと頼んだ。
 その時にはもう無料ではなかった。二万円を出して、最初に貰った量と同じくらいの量を手に入れて、それを数日で使い果たし、その後もその粉が欲しくて男を探した。男に会う度に、粉の値段は上がって行った。
 絵を描く為に貯金していた預金はあっと言う間に消え去って、友人達からお金を借りて、それでも足りないから闇金融にまで手を出した。借金はこれまでの間に、恐ろしい程の額に膨れ上がり、粉の効力が無くなると不安で仕方が無くて、更に粉を求めた。破滅に破滅を重ねて、僕は廃人になるかも知れないと考えた事もあった。でも、やめられなかった。
 両親は、やがて僕の異常に気が付いた。借金の取り立て人も毎日の様に訪れて、父も母も涙を流し、悲しい子供を産んでしまった事を悔やんでいた。口では、「お前が悪いんじゃない。」と言うけれど、嗚呼、僕は何て親不孝者だろうと思うと、とても胸が苦しくなった。その様な感情は、未だかつて経験した事が無かった。
 僕は思い切って残り少なかった粉をごみ箱に捨てた。やめられないだろうと思っていたけれど、何かしらの行動は自分で取りたかった。でも、両親は僕の背徳的行動に決定的な衝撃を受けたのか、ある夜、自宅に火を点けて無理心中を図った。
 父母は、死にました。
 家は、僕だけが消防士に助けられた後も濛々と燃えていた様で、全焼して、僕の心の様に灰になった。僕は両親の笑顔を思い出し、何度も声を上げて泣いた。……
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