11/27の日記
00:02
5:米世界で暮らしてみよう
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やってしまった。
俺は昨日の夢についての失敗をどうしようもない程反省していた。
だって、犯罪者の居る場所でお昼寝だぞ?
そういった諸々を考えた結果、無いと思うけど本当に最悪だった場合だ。
もし悪い奴に捕まってて、寝て直ぐに逃走する羽目になった場合を考えて、今日は授業中に寝るのは止めた。
事前にたっぷり晩御飯を食べて、風呂にも入って、両親にも疲れてるから起こさないように言って、俺は自室のベットに潜り込む。
明日は土曜日だから、最悪でも今から十五時間くらいは寝てられるだろう。
それでは、おやすみなさい。
さて、どうなっている?
俺が目を開けるとそこは誰かの車の中だった。
椅子は革張り、フロントガラスから見えるボンネットは黒色で、いかにもお高いですといわんばかりのスリーポインテッド・スター、俺でも知ってるベンツのシンボルが付いている。
今度は何処で目が覚めたのだろうか。
ドアを開けて外に出てみれば、薄暗くて、汚くて、野良猫やゴミ箱が無造作に置かれている路地だった。
道はコンクリートで、辺りの店はすこしエロちっくな香りのする酒場だかホテルだか。
ポケットを漁ってみてもコイン一つ出てこないし、どうしたものか。
立ち尽くして寒さに身を竦めると、壁の方から小さな猫が僕の靴を踏みにやってきた。
この猫が去るまでは車の持ち主を待ってみて、誰も来なかったらまたそこら辺のカジノにでも入って金を作り、今度こそサマセット州に家を借りに行くってのはどうだろう?
そういう事にした。
すこし肌寒い風が通り抜け、俺はその三毛っぽい毛並みの猫を抱え上げて暖を取る。
猫も俺で暖を取っているのか、膝に乗せても撫でても抱きしめても嫌がらないその猫を、俺はなんだかとっても気に入ってしまって、鼻先が触れ合うか触れ合わないかの距離で見詰め合った挙句に、マグロという名前を進呈してやった。
将来的に喋るといい。マグロうみゃーにゃー。
「マグロ、お前ちょっと耳欠けてるけど、喧嘩でもしたの?」
にゃー
子猫の毛と体は柔らかく、まん丸の目とチラチラ覗く舌なんて堪らない程可愛らしい。
こいつ、いつまでも去らないで俺といればいいのになぁ、そしたら暖かくて寂しくないし。
それにしても、寒い。
ふと何処かの店のドアが開いた音を聞いて立ち上がれば、昨日のBARでディーラーをしていた男、ステッキがネイル煌めく店の一軒から現れたところだった。
恐らくだが彼が俺を此処に連れてきたのだろう。
彼は可愛らしい少し年増の女性にキスで見送られたあと、車の影で佇むこちらを見つけて、大慌てで駆け寄ってきた。
「どうして外に出てるんだ。車の中に入ってればよかったのにったく、寒くねえか?お前ずっと寝てて揺すっても起きないからサマセット州は通り過ぎちまったぞ?」
ドアを開けて、マグロを抱えた俺をせかせかと後ろの席に乗せた彼は、自分も運転席に乗り込んでからすぐさま暖房を入れてくれた。
にゃー
温かい風を感じたのか、マグロは俺の膝の上で丸まって目を閉じている。暢気なもんだ。
「猫か」
「マグロって言うんだ」
「まぐろ?・・・エイズが怖いから裏路地の猫にはひっかかれるなよ」
「ありがと」
猫にもエイズなんてものがあったのか、そっと膝に居るマグロから手を離す。
それと、何処に行くかはともかくして暖かい車内に上げて貰ったのは事実なのでお礼を言うと、彼は鼻を鳴らして車のアクセルを踏みながら俺にシートベルトをするようにと指示をした。
「何処へ行くの?」
「俺様の本拠地」
「泊めてくれるの?」
「此処まで来ちまったからな」
「誘拐なら無駄だよ?」
「見りゃわかる。こんなチビの時から店に入れるなんざ碌な人生送ってない証拠だ。賭けの才能がありそうだから本店のディーラーとして働いて貰う、」
「それって犯罪?」
進む車の窓から夜のネオンがチラリと見えた。まだ夜だ。現実と夢の中じゃどうにも経過する時間が違うらしい。
ふと、何かが空を通り過ぎた気がして後ろのガラスを見れば、ビルとビルの隙間をなにか鳥のようなギザギザしたものが滑っていったのが見えた。
なんだろ、風で流された凧にしてはデカかったが。
「ゴッサムシティはな。俺らみたいな悪い大人が血の繋がらない子供を連れてきたってなったら、仲間内じゃ誘拐って言ったほうが手っ取り早いいんだそうだ」
「ステッキって悪い人だったのか」
見ればわかる事だったな、ごめん。
車の窓を開けようとしたステッキを制して俺は大人しく話を聞くことにする。
「ドンと呼べ。一応もう俺の部下扱いなんだから」
ドン、首領、マフィアなんかがよく使う、組の頭に対する名称だ。
「イタリア系?スペイン系?」
「…イタリア系、アメリカ産まれのクオーターだ」
「よろしくファーザー」
「誰が父親だ!」
だってゴッドファーザーはアメリカ生まれのイタリア映画でしょ?
「じゃあパパ?」
「おい、小僧。あんまりはしゃぐと窓から首根っこ掴んで放り投げるぞ」
「すいませんでした」
じゃあ、安全なこともわかったし、そろそろ起きようかな。
なんだかお腹空いちゃったし…あ。
「僕寝てるから、マグロに餌やりおねがいしていい?」
「あ?」
「僕あんまり食べないんだ。マグロはお腹すいた?」
にゃー
「だって、だからマグロの餌をよろしくね」
もうそろそろ朝日が昇りそうな夜の町を見上げて、俺は車のソファにのんびりと寝転がる。
では、一旦起きて朝ごはんでも食べるとしよう。
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