TOV

□貴方(貴女)に捧げる愛の言葉
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チチチチッ

鳥のさえずりが聞こえる。

「んっ」

何とか重い瞼を開けて伸びをする。

「ふぁ、もう朝ですか」

早いですね、と一人で呟く。


ガチャッ
扉が開く。
入ってきたのは愛しの彼。

「おはようエステル」

「ユーリ、おはようございます」

「今日はエステルにしては早かったな」

「ユーリがいつも早いだけです」

これは何のへんてつもない朝の会話。
世界から魔導器(ブラスティア)が無くなってから3年。

私はユーリと結婚しハルルの木の下の家で2人で住んでいる。

旅が終わったら一緒に居ることもできないと思っていた。

けど、私はユーリと離れたくなかった。
だからどうしても伝えたかった、私の想いを・・・・







“3年前”

あれは旅がもう少しで終わってしまう宿屋での出来事。
私は自分の気持ちを告げる決心をしてユーリの部屋を訪れた。


軽くノックをすると入っていいぞという声が聞こえたので失礼しますと言って部屋へ入った。

「エステル、どうしたんだ?」

「あの、ユーリ」

「ん?」

「ユーリに伝えたいことがあります」

「オレに?」

深呼吸をする。
大丈夫と自分に言い聞かせて彼に告げた。

「ユーリ、好きです、大好きです」

嗚呼
言ってしまった。


「知ってる」

対する彼の反応は私の予想したものだった。
最初からわかってた。
彼が自分の好意に気づかないふりをしていたことに。

「私の気持ちに気づいていたのにずっと触れないでくれましたよね」

「あぁ」

「でも、もう少しで旅は終わってしまう」

「だから、伝えようって思ったんです」

フラれる覚悟で
と私は小さく呟く


「 何で返事聞く前から諦めてんの?」

「当たり前ですよ、こんなにワガママで世間知らずで面倒くさい女、好きになってもらえるわけないです」

「ふーん、じゃあ何で告白とかすんの?」

「最初にいった通りです。私は自分の気持ちを伝えたかっただけですから。返事はいりません」

嗚呼、矛盾している。
さっきフラれる覚悟なんて言っておいて相手の返事はいりませんなんて。

私はユーリに背を向けて歩きだした。

はずだった。


けれど私の足はいっこうに進まない。
何故ならユーリに後ろから抱きしめられているからだ。

「ユっ、ユーリ!」

私は思わず叫んだ。
こんなことをされると期待してしまうから

私はユーリから離れようと必死にもがく。
だけどユーリは私が離れようとすればするほど抱き締める腕に力をいれて、まるで離さないといわんばかりに強く抱き締める。

「ユーリっ」

お願い、もう離して、貴方は貴方が愛した人と一緒になって幸せになって。
私は貴方の幸せを願っています。

そう私は泣きながら小さな声で呟いた。

「なぁ、エステル」

「・・・はい」

「今の言葉、それはお前が全部決めつけてるよな?大体オレの愛した奴とか幸せになってほしいとか、それは全部お前が決めることなのか?」

「っ」

まったくもってその通りだ。

「それに、言い逃げは卑怯だと思うぞ?」

「そ、それはユーリは私のこと、好きではないから・・・」

彼が何て言うのかを聞くのが怖くて
また小さな声で呟く

「それを決めつけてるって言うんだよ
大体オレの好きな奴とかオレの幸せとかそれはオレ自身が決めんの」

「いいか、一回だけしか言わないからな」

嫌っ、聞きたくない、聞いたら立ち直れなくなってしまう。

振られるのが怖いなら告げなければよかった、ただそれだけなのに、告げづにはいられなかったこの思い。

ユーリの唇が答えを紡ぐ。
聞きたくない、聞きたくない
ぐっと目を閉じ、前に回されているユーリの手を掴む。
そうすると、ユーリの手は応えるように握り返してくれた
と、同時に

「好きだ、愛してる」

ユーリの低く甘い声が私の耳を掠めた


「えっ」


一瞬なにを言われたのかわからなかった


「もう言わないからな」

そう言ったユーリの顔は少し赤みを帯びていた。


言われたことをやっと理解できた私は、きっとユーリよりも赤くなっているであろう顔でこんなことを言っていた。

「・・・本当に言ってくれないんです?」

何を言っているんです!?私!!
そうじゃなくて、返事をしないと
こんがらがっている頭で必死に考える。
しかし

「あぁ、けどお前と隣にいられられるようになったら何回でも言ってやるよ」

ユーリは私の問いに答えてくれた。
その答えの内容に私はまた一瞬なにを言われたのかわからなくなった。

「それって」

もう一度聞きたくて聞き返すと
とても幸せな言葉を聞くことができた。


「これは本当に一回だけしか言わないからな」








“オレと結婚してくれますか?”











「・・・・ル」

「・・ステル!」

「エステル!!」

ビシッ
オレはぼーっとしてる妻の額にでこぴんをした。

「あうっ、痛いですユーリ」

「ぼーっとしてるお前が悪い、なに考えてたんだ?」

「考えてたって言うより、思い出していたのほうが近いですね」

エステルは額をさすりながら言う。

「思い出してた?」

「はい、3年前のことを」

「あぁー、もしかしなくてもエステルの決めつけ話だな?」

オレは懐かしいなと言いながらエステルの頭をぽんぽんと撫でた

「むぅ、ユーリひどいです、私も一生懸命考えての行動だったんですよ」

ぷうっと頬を膨らませて怒るエステル。
そうやって怒っても全然怖くない、むしろ可愛いらしい。

「でも、言い逃げは卑怯だよなって話だな」

「すみません」

エステルが明らかにシュンとした感じで項垂れる。
うさぎみたいな耳があったら完璧に垂れてるな、と思いながら。


「それにしても、なんで今頃?」

「なんででしょうか、私にもわかりません、けど、今こうして貴方と隣にいられることがとても嬉しいんです」

エステルがとても幸せそうに微笑む。
オレはその顔がとても綺麗だと思った。

「ん、オレもだよ」

素直な感想を言う。だって本当のことだから

「ねぇ、ユーリ?」

エステルがオレにたずねる

「何?」

「もう一度言ってくれます?」
「“ ”」

エステルは先程とかわらない幸せそうな笑みでそういう。

オレはただうなずいて見せた




「エステル」












” 好きだ 愛してる“














もう一度言ってくれます?
あの時の言葉を


勿論だ、だって今こうしてお前と隣に居るんだから





End
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