TOV

□綺麗な花を貴方に
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風が気持ちいい。
ハルルの木の下に座りそんなことを思った。


季節は春。
色んな蕾が花開くこの季節が私は一番好きだ。


今現在、ハルルに在住している私は、夢であった絵本作家になり、数冊書き上げてハルルの子どもたちに読み聞かせをしたりしている。

今も新作の絵本の読み聞かせが終わったばかり。
今回も子どもたちは楽しんでくれたようだった。
子どもたちは笑顔で、『また読んでね』『楽しみにしてるよ!』など、とても嬉しい言葉をくれる。
それが私の力になるのだ。

私はハルルの大きな木の幹に体を預けて、春風に身を任せた。

そこでふと暫く会っていない青年のことを思い出した。

今どこで何をしているのだろう。

彼のことだからどこかで人助けでもしているのだろうか。

なんだかんだ言っても彼は困っている人をほっとけない優しい人。


「会いたい....です」

口からはずっと押さえ込んでいた言葉がこぼれ落ちた。

今は彼にそんなに会ってはいない。
いや、会えていない。

いまやギルド凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)は五大ギルドにも匹敵するほどの実力がある。

まして彼はその凛々の明星の重要な人。

そう簡単に会えるわけが無い。

「でも約束しましたから、必ず会えますよね」

彼との約束。
それは、彼が報酬で貰ったまだ蕾の花を私が咲かせること。




○●○●○●○

彼はいつも突然やってくる。

この日も突然ひょこっとやってきた。
まだ少し肌寒い季節に、手に鉢植えを抱えて。

『これギルドの依頼の報酬で貰ったんだけどオレ、花とか育てるの苦手だから、エステル育ててくれないか?』

そう言って鉢植えを手渡してきた。
少し戸惑いもあったけれど、断る理由も無いので素直に受け取った。

『はい、いいですけど、本当に私が育ててもいいんです?』

『あぁ、オレが持ってたって枯れちまうだろうし。だから、エステル。その花咲かせてくれよ。また、エステルのとこ寄ったときついでに見に来るから。約束な?』

彼はいつもの笑顔でそう言った。

『はい!分かりました』

私も笑顔で応えた。

そうして彼と私の約束が交わされたのだ。


○●○●○●○




そして

彼、ユーリから貰った花はとても綺麗に咲いた。

紫のアネモネ。

このアネモネの花は『風の花』とも呼ばれている。
よく風が吹く頃に咲くからだそうだ。
彼から貰った大切な花だから図鑑などを見て詳しく調べたのだ。


私はハルルの木の下から移動して、自分の家に入る。
玄関のすぐ側にその花は飾ってある。
ユーリが来たときいつでも見られるように。


「ねぇ、ユーリ。貰った花、咲きましたよ?後はユーリに見てもらうだけです」


私の声は震えていて、視界はぼやけその花をしっかりと見ることができない。


「私、待ってますから。この花を枯らしてしまわないようにお世話もします。この綺麗な花をユーリに見せるために。だから必ず来てくださいね?」

誰もいない玄関で私は一人泣きながらそう呟いた。





とても綺麗に咲いている紫のアネモネの花は今日もしっかりと世話がされている。

彼女が待っている一人の青年の為に。




End
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