ポケモン 短編

□サザンドラの祝日
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わたくしの名はサザンドラ。
野生のポケモンだ。

…今はですがね。

わたくしには以前まではゲーチスというご主人さまがいた

だがそのご主人さまは野望を潰されて精神を病んでしまわれた

わたくしはその後ご主人さまに解放されたのだが、
時々ご主人さまの元に会いに行っている

わたくし達を道具としか見ていない酷いご主人さまだったが
わたくしにはご主人さまとの思い出がある

その思い出は忘れません

だから、時々こうして
今日も彼に会いに行く

正直、精神を病まれ無気力化したご主人さまに会いに行くのは少し憂鬱だったりするが

ご主人さまの義理の息子であるNさんに会うとそんな憂鬱感も消える

Nさんはとても優しく
無気力化したご主人さまの側で黙って泣いていたわたくしを一生懸命励ましてくれた

そんなお優しいNさんがお側にいらっしゃるのだからご主人さまはきっと良くなるでしょう

最後にご主人さまに会って気持ちを伝えてから約二カ月の今

わたくしはご主人さまの住んでいる家の上空までやって来た


下を見ると…おや、あれは

Nさんとご主人さま!それにダークトリニティ…

何やらNさんは雪玉を転がしているようですね
ダークトリニティ達は雪をかき集めて、ご主人さまはその様子を黙って見ているように見える

わたくしは早速彼等の元に降りて行った


「サザンドラ!」

真っ先に降りてきたわたくしに声をかけて下さったのはNさんだった

『こんにちは、お久しぶりですNさん。皆さんお揃いで何をしておいでなのですか?』

わたくしは少し大きくなった雪玉に手を添えながらわたくしを見ているNさんに軽く頭を下げて聞いた

「こんにちはサザンドラ。久々だね!今雪だるまを作っているんだ」

Nさんはニコニコと楽しそうに雪玉を転がした
わたくしはそんなNさんを微笑ましい気持ちで見る

『そうなのですか。冬の風物詩みたいなものですからね雪だるまは…』

「うん。でも手がじんじんするんだ…手袋がしみってきてしまった」

Nさんはそう言って苦笑した後、

「父さん。声、聞こえるかい?」

『?』

Nさんはご主人さまの方に視線を移し
よくわからないことを言った

わたくしもNさんにつられてご主人さまを見ると車いすに乗っているご主人さまは驚いた顔をした後、コホンと咳払いをしてわたくしを呼びました

『ご…ご主人さま?』

わたくしはそんなご主人さまに若干躊躇いながらも言うとおり側によりました

以前までのご主人さまは無気力になって表情もまるでなく…
最後に会った時はご主人さまがわたくしに気づいてくれたものの叩かれ不機嫌な顔をされたというのに

今のご主人さまは今まで見たことのないような優しい表情をしている…

正直驚きを隠せません


「サザンドラ、お久しぶりですね。あの夜以来ですか…」

『!ご主人さま!』

普通に喋っている!

あの夜もそれなりに喋ってはいましたが…
何かが違う!

「おや?どうしましたそんなに慌てて。Nには挨拶をして元主人であるワタクシには挨拶なしなどと…」

『あっ…申し訳御座いません!お久しぶりですご主人さま!』

「…えぇ、お久しぶりです。……もうワタクシはお前の主人ではありませんがね…」

ん…?
あれ?

何か違和感が…

『ご主人さま?』

「何です?」

『ー!』

わたくしはとても驚いた

『わたくしの言葉が分かるのですか!?』

わたくしはご主人さまと会話を…

「えぇ、分かりますとも」

『えぇぇええぇぇぇぇぇ!?』

驚きのあまり絶叫をしてしまった

だって…これまで一度もご主人さまと会話などしたことがないのですよ!? 

世の中にはNさんのようなわたくし達ポケモンの言葉が分かる者が居ることは知っているが…

ご主人さまにはこれまで何度話しかけても伝わらなかったというのに!

「そんなに驚かなくてもいいでしょう。元々ハルモニア家の者はポケモンの声が聞こえる血筋。……ワタクシにはこれまで聞こえたことなどありませんでしたが…。」
 

ハルモニア…それはご主人さまの家の氏

ハルモニア家の者はポケモンの声が聞こえるとか
初耳ですご主人さま

ハルモニア家の血筋のようであるNさんがポケモンと話せるからそうなのかとしか思わないが…

……そうか…
以前あの暗い部屋で『どうしてワタクシには聞こえない!?』
…と、苦しそうな悲しそうな顔をし
ていたのはそれでなのだろうか

『…ですがどうして聞こえるように…?』

以前までは聞こえていないようだったのに
不思議だ

「…そうですね。ワタクシの内面的な部分が大きく変わったからでしょうか?」

『?』

わたくしは首を少し傾げた
内面?

「ワタクシはこれまで、ポケモンや他人を道具としか思っていなかったのですよ」

それは分かる…
わたくしもそう見られていたし

「……ですが。今のワタクシには大切だと思える他人が居るのですよ。…そしてその他人に感謝という感情を持っている。…そんな感情…今まで持ったことがなかったというのに」


大切だと思える他人…?
わたくしは無意識にNさんに目がいっていた

大きな雪玉の近くで再び新たな雪玉を丸めているNさんは、わたくしの視線に気づくとニコッと微笑んでくれた



「…分かっているようですねサザンドラ…。それが誰なのか」

おかしそうにご主人さまはククッと笑いました

そしてNさんをチラッとご主人さまは見、

「あの子はね。不思議な子ですよ…。一緒に過ごせば過ごす程今までの苦しみや恨みなど…全て包み込んでくれるような…。」

『…分かります』

わたくしは頷いた

あの人はとても純粋で優しい
『悪』を余り知らない気がする

数年前…あの城内で見かけた時はただただ純粋な人だった

だが、
ジャイアントホールで再びNさんを目にした時

瞬時にこの方ならご主人さまを救って下さるんじゃ…と思った

だからご主人さまが負けた時ですら、Nさんがご主人さまを冷たい檻から救って下さるんじゃないかと思っていた

実際Nさんがご主人さまを説得した時は、少し揺らいでいたように見えた気もする…が

…あの時のご主人さまは完全に取り乱してしまって…

あの後『役立たず共め!』と 
捨てられたわたくし達

暫くしてご主人さまの居場所を知り会いに行った

その時久々に見たご主人さまは…もうわたくしの知っているご主人さまではなくなっていて…

でも『絶対救ってみせる』と強い意志のこもった目をして宣言したNさんを見て

間違ってなかったと思ったのを昨日のように覚えている

「あの子は…ワタクシの知らない二年の間に何があったのでしょうね…。すっかり人間らしく…ですが普通の人間らしからぬ正義の心を持って帰ってきた…」

『!』

わたくしはご主人さまに撫でられた

「その心に悪としてのワタクシの心は浄化され、今のワタクシが居るのです。………なんてね」

そう言ってご主人さまは笑み
Nさんを眺めた

…ご主人さまは…こんな表情で笑うような方ではなかったよなぁ…

そんなご主人さまを見てわたくしは何だか暖かい気持ちと、
少し寂しい気持ちに捕らわれた

……ご主人さまを救ったのは…ご主人さまと長い付き合いのあるわたくしではなく
出会って十数年のNさんだったということが、微妙な寂しさを感じさせたのです

けれど、あのNさんだからこそ良かった気もする
わたくしでは救えなかったかも知れない……

「サザンドラ」

物思いに更けていると、不意にご主人さまがわたくしを呼んだ

『はい、何でしょう?』

小さな嫉妬を悟られぬよう、出来るだけ明るい声で、ご主人さまに返事を返した

ご主人さまはコホンと咳払いをして

「…また、ワタクシのポケモンになる気はありませんか…?」

『え…』

…そんな、
嬉しなことを言って下さった。
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