掌編

□歴史に名を残す
1ページ/1ページ

 僕は歴史の授業が嫌いだ。日本史も世界史も全く興味が無い。だけどある日ふと考えた。興味が沸かないのは、自分が歴史に関わっていないからじゃないか? と。もし自分が卑弥呼とか徳川家康とかの子孫だったら、きっと好きになっていたと思う。だけどそんな考えが浮かんでも、もう手遅れだ。
 なら方向性を変えよう。
 僕は、子孫の為に歴史の教科書に載る人物になろうと考えた。まず歴史の教科書に載る人物とは何をした人なのか?
 少し調べてみると、大体三つに分類された。まず、絵画や文学で文化を先行した人。次に執権、将軍を含めた政治家。最後に、戦争だの事件だのを起こした人。
 一つずつ吟味していこう。第一に文化人。自慢じゃないが、他人の心を動かせる能力が無い事ぐらい自覚している。これは即却下だ。なら政治家はどうだ。パラパラと日本史の資料集を捲る。するとあるページに目が止まった。“歴代の内閣総理大臣”とタイトルがつけられたそのページには、初代の首相から順に、写真付きで名前が載せられていた。
「なるほど。この手が有ったか」
 首相になれば、嫌でもこのページに名前が載る。そうと決まれば早速実行だ。まずは政治家にならなければいけない。政治家になる為には良い大学を出てなければいけない。良い大学に通う為には良い成績でなければいけない。しかし、その点で問題は無い。自分で言うのもどうかと思うが、僕は頭が良い。現に志望大学は俗に言う上位校だ。僕は合格へ向けて勉強を始めた。
 そして三月初旬。僕は難なく第一志望だった大学の合格通知を手にしてした。
 順調に三年生になった僕は、首相になる為の道筋を詳しく決めてみる事にした。
「絶対**党には入らないとな。その前に出馬する為の資金を作って……いや、でも待てよ? 出馬資金って百万や二百万じゃ足りないよな? 被選挙権が得れるのは衆議院が二十五歳で、参議院が三十歳。それまでに上手く資金が集まって、議員になれたとしても、首相なんて六十歳ぐらいにならないとなれないよな?」
 そんな長時間掛けれるか! と、僕はちゃぶ台をひっくり返したくなった。ちゃぶ台なんて持って無いけど。気付くのが遅すぎた。もっと手っ取り早く教科書に載る方法はないものか? 再び思案にふけった。
 そして数日後、やっと結論が出た。これならいける! と自信を持って言える。僕は幾日も掛けて計画表を綿密に書き、計画通りにそれを実行した。

 始業ベルが鳴る。生徒はだらだらと席に着き、眠そうに授業を聞く。
「今日は二十一世初頭の続きからだったな」
 教師は黒板に向かってチョークを走らせた。
「今から丁度百年前、二〇〇八年に〇八大逆事件が起きました。大逆事件って言うのは一九一〇年にも有ったな。覚えてるか? 天皇や皇太后に危害を加えるのが大逆罪だったな? 大逆罪自体は1947年に廃止されたんだが、この年、大学三年だった吉田良雄と言う青年が当時の天皇を暗殺しようとしたから大逆事件とつけられたんだな。まぁ、失敗したけどな。はい。この『吉田良雄』って名前と『〇八大逆事件』はチェックしとけよ。期末テストに出すからな」

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ