H×H 連載夢
□第九章
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『へぇ〜!じゃあ3人とも、試しの門を開けられるようになったんだ。おめでとー』
パチパチとユラが拍手する。
今は朝食時、彼女が同じテーブルにつくのは今回が初めてだ。
「スッゴいんだ!レオリオなんて2の扉まで開いたんだよ!」
『おお…!さすがレオリオ』
「いやあ〜それほどでも、あるかな?」
照れるレオリオの横で、オホンとクラピカが軽く咳払いをした。
「そこでなんだが、ユラ」
『うん』
「今日、キルアを迎えに本邸へ行こうと思う」
−ただし、ゴンとレオリオと私の3人で、だ。
その言葉に、きょとんとユラは紫色の目を丸くした。
この小屋に来てから、そろそろ20日。
彼女は、ついに他の人格と一度も交代せず、ずっと“ムラサキ”のままだった。
−………まあ、易々と人に知られていい事情でもないのだろうが。
そうしていると、本当に普通の女の子にしか見えない。
クラピカは、ユラの目を見ながら再び口を開いた。
「ユラにはここに残ってほしい」
『女子禁制、と』
「…そういうことではない。しかし、お前が我々に着いてくるのは危険なんだ」
と、ここでレオリオが口を挟む。
「お前の傷、昨日見せてもらったけどよ………まあ、ネテロ会長が言ってた通りかなりの回復力だ。それは認める。
ただ医者の卵として言わせてもらえば、お前の傷は皮膚表面が完全に治っていても、内臓までがそうとは限らねえ。仮にも心臓スレスレを貫通したんだ。相当体にその負担が残っていてもおかしくねーんだよ」
「よーするにね」
最後にゴンが、ユラの顔をのぞき込むようにして言う。
「ユラには、待っててほしいんだ。俺たち”4人“が帰ってくるのを」
ユラはゆっくりとまばたきをした後、少し視線を落としつつ至極あっさりと頷いた。
『そっか。わかった』
「……あー、一応言っておくが、別にユラがいるのが迷惑とかそんなんじゃねえんだ」
とレオリオがあわてて弁解を始めるが、
ユラは笑顔でカップを持ち上げて見せた。
それは、ゼブロが彼女のために用意した、普通の重さの食器の1つだった。
『まあ、そもそも試しの門を開けられなければ、ゾルディック家に入る資格はないみたいだし。僕は開けてないもんね。頑張ってね、3人共』
こうして、ゴン、クラピカ、レオリオの3人は出発のための準備を始めた。
*****
「絶対に無茶すんなよ!大人しくしてるんだぞ!いいか、絶っっっ対だぞ!!」
レオリオが何度も念押しするのには訳がある。
実は、先ほど荷物整理のためにちょっと目を離した隙に、ユラが何をしていたかというと。
「……まさか、薪割りしようとしてるとは思わなかったよね」
オレが気づいてよかったよ、と小声で言うゴンにクラピカも頷いて見せる。
本人曰わく、ここに身をおかせてもらうからには、何か手伝いをしようと思ったらしいが。
「何もその体で200キロの斧を振り回そうとせんでいい!!」
『えー』
クラピカは未だガミガミと説教されていているユラに近づいた。
「まあ、ただ部屋でじっとしているのも退屈だろう。これでも読んいたらどうだ」
一冊の分厚い本を貸してやった。
すると、予想外に嬉しそうな顔をして、
『−ありがとうございます!私、本を読むの大好きなの』
「!」
彼女の目が深い蒼色に変わった。
−確か、”アオイ“という人格だったな。
しかし、それもほんの一瞬で、
『ありがとう。クラピカ』
「あ、ああ」
再び“ムラサキ”が表に出てくる。
そのまま“ムラサキ”はふと遠くを見やった。
『いよいよ、本邸に出陣だね』
その言葉にゼブロが反応した。
「おや、ユラさん。本邸のある場所をご存知で?」
えっ!とゴンとレオリオとクラピカの視線が集中する中、彼女は顔に?マークを浮かべて首を傾げた。
「ユラさん、いまあちらを見て本邸とおっしゃったでしょう?確かに、そこの小道をあちらの方角に向かって進めば、本邸へいけるはずなんです」
「はず、とは?」
と、クラピカが聞く。
「お恥ずかしい話、20年勤めていて、実は山まで行ったことがないんだよ。お役に立てなくてすまないね」
「とんでもない!」
と答え、ゴンはそのままユラに視線を戻した。
「でも、ユラはなんでわかったの?」
『なんでって……』
困ったように笑いながら、ユラは言う。
『バスガイドさん、言ってたじゃないか。あの山のどこかに、ゾルディック家のアジトがあるってさ。ただ山の方角を見てなんとなく言ってみただけなんだけど』
「あ、そっか」
『……3人共、バスガイドさんの説明まともに聞いてなかったでしょ?』
ゴンが決まり悪そうにエヘヘ、と笑った。
「−しかし、お前よォ、こいつらよりハンター暦ながいんだろ?一度でも、ゾルディック家に乗り込もうとしたこととかねえのか?」
見送りに出てきてくれたのだろうシークアントの質問に、ユラは肩をすくめて、
『まさか!自分から乗り込もうなんて思わないよ、こんなややこしいところ』
死んじゃうよ、と笑った。
割と和やかな雰囲気の中、ある種の緊張感を持って3人は出発した。