IF
□誰かが消えた日
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その男は、普段からは考えられないほど震えた手で、
必死に少女の止血をしていた。
土埃にまみれ、額から、肩から、腹から、足から、信じられない量の血を流す少女は、
それでも、ブツブツと何か唱えていた。
そして、滴るほど真っ赤な血で染まったタオルを男が取り替えようとしたとき、
「…………じ、ん?」
うっすらと少女の目が開く。
「っ!馬鹿かお前は!!こんな…っ」
こんな無茶しやがって、と怒鳴るその声がいつになく震えているのに気がついて、少女はほんの少し目を見開いた。
−私が死んだら、ジン泣く?
あのときは答えてくれなかったけど。
「へへ………嬉しいな…」
まるで。
まるで、彼は私が死ぬのを本気で悲しんでいるような気がして。
「……ゆめ、みたいだなぁ…」
「ッいいから、もう喋んな!」
「ねえ、ジン」
ふわり、と少女は笑って。
「ここ、天国…………?」
呼吸することを、やめた。