H×H 短編夢
□赤く紅く朱く
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慌てて立ち上がった彼女はパタパタとスカートを叩き、
まず、オレを睨んだ。
『…………見た?』
「え?えと、何を?」
多分、スカートがめくれあがったときチラッと見えた赤いしましまのことを言っているのはわかっていたけれど、あえてとぼけてみる。
日頃友人達からはウソが下手だと言われ続けているので自信はなかったが、
『な、何でもないっ。見てないなら、いいの』
なんとか誤魔化せたみたいだ。
『そ、それで?何か用?』
未だに警戒しているらしい彼女に思わず苦笑いしながら、
「うん。こんな時間だから、もうそろそろ帰ったほうがいいと思って声かけたんだ。ここ、人気ないから物騒だし」
『……それはどうも。すぐに、帰るから』
そっけなく答えて、彼女はもうほとんど終わりかけの本を再び開いて読み始めた。
伏せられた睫毛が、柔らかそうな肌に陰を落としている。
それに見とれつつ、オレはちゃっかり隣に腰を下ろした。
そして、およそ十分後。
伸びをした彼女は、隣のオレに気づいてギョッとしたようだった。
『………まだ居たの?』
「ひどいなーせっかくボディガードしてあげてたのに。ところで、そんなに夢中になって、なんの本を読んでたの?」
つ、と彼女はそっぽを向いた。
『内緒』
そのまま、カバンを持ってスタスタ歩き出す。
「家、遠いの?ひとりで大丈夫?」
思わずその頼りなげな後ろ姿にそう言っていた。
すると、振り返った彼女は頬が膨らませて、
『大丈夫だよ子供じゃないんだから!』
拗ねたような、アルトにちかいその声にも少しゾクゾクとした自分がいて。
−ああ、美味しそうだな。
そんなことを考えてしまった自分に自嘲した。
それは、月の出ない新月の夜だった。