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□平成のS.Hとの邂逅
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「薫、ちゃん……」
呼ばれた彼は“ちゃん”のところで盛大に顔をしかめつつ、何かを投げて寄越した。
見れば、真新しい黒色のコートだった。
「ありがと。これ、薫の?」
「ッハ!まさか。そのへんでかっぱらってきたものだ」
…威張ることじゃないと思うんだけど。
コートを羽織りながら改めて彼を見る。
整いすぎた顔の周りを柔らかそうな黒髪が覆い、前髪の隙間からただならぬ眼力を秘めた赤い瞳が2つ。
どこか人間離れした雰囲気を持つ彼は、実際、人間ではない。
−”神獣“
生命エネルギーの巣窟のような彼らは、当然、欲深い人間の格好の獲物だった。
念を使いこなし、時には人に化け、神獣達も相当な抵抗をして見せたものの、彼らは徐々にその数を減らした。
あるものは捕まり、あるものは身を隠し。
そして、神獣の中でも“タツノトリ”と呼ばれた彼らの1人が、いよいよ捕まろうというとき。
抵抗した彼は膨大なエネルギーを爆発させた。
それは彼を取り囲む人間達を消し炭にするどころか、そこら一帯を焼け野原にした挙げ句、時空に穴を開けた。
膨大なエネルギーの消費に伴い、力尽きた彼はその魂を肉体から離脱させた。
そして、体力の回復を図るため、時空の穴から現れた1人の小さな少女の体に寄生した。
それが、あたし。
異次元から現れたという少女を人々が放っておく筈もなく、あたしは酷い目にあったが、
唯一助かったのは、あたしが勝手に薫と名付けた彼が、痛覚を消し、生命エネルギーを分け与えてくれたことだった。
寄生させてもらう身であり、また、異世界から突然あたしがトリップさせられ、狙われるハメになったことに多少の責任を感じたらしい。
そして何故か完全に回復した後もあたしの体に寄生したままで、たまに自らを人型に具現化して出てくる。
「……何じろじろ人の顔見てしみじみしてるんだ貴様」
「いやあ、だってこの火傷…」
次元越えによって負った火傷とみて間違いないだろう。
あたしが薫と出会った頃に逆もどりしたかのようなこの状況。
身体が全体的に少し幼くなってるし。
つまり、
「ここ、異世界だよね」
「ああ」
うわあ……
めんどくさぁ……
また、あたしは世界から弾かれるのだろうか。