The prime
□swell
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流れで告白したあの日から月日は経ち、最近は遙の家に行くこともなかったので本人に会うこともなく夏休みは終わった。
今までよりも素っ気ない態度
真琴と2人で海
そんなことが重なれば、会いたいと思っていても此方から避けてしまうというものではないだろうか。ここは幼馴染の危機回避能力の高さを喜ぶべきなのかもしれない。俺みたいな変なゲイに引っ張られずに真っ当な人生を送っていってくれるのが、遙にとって良いことであり普通のことなのだ。そうに決まっている。
遙が俺がいなくとも普通に生活し、泳げるように、俺だって楽しく友人と遊んで夏休みを過ごすができた。ただ、ふとした時に遙の顔が浮かぶだけだ。そこは好きなのだから仕方がない。焦がれるのも禁止されてしまったら俺は生きていけない気がする。
海の見える道を歩く。もう何日遙と会って喋っていないだろう。
海豚のようなあの泳ぎが見たい。
新学期の足取りは重い。遙は、真琴と一緒にくるだろうか。いつもだったら新学期は俺が迎えに行く役目だったのに…
泣きたい
遙に会いたい
***
帰宅部の俺は学校が終わるとまっすぐに家に帰った。
ここのところ、以前にも増して遙のことで頭がいっぱいだからだ。
水着を仕込み、海へと向かう。
泳ぐこともなく水に浮かび波に揺られる。遙の顔が頭で浮かんだ瞬間潜水した。
何をするもなく水の音に耳を傾ける。泳ぐのよりも潜っていることが好きだ。この音をいつも聞いていたい。だけど、遙を見ると、自分も泳ぎたいとそう思うのだ。
***
日暮れ前に家に帰れば母が待ってましたと言わんばかりにタッパーの入った袋を俺に寄こした。まだ温かい。
「これ、七瀬くんに持っていってあげて?」
早く仲直りしなさいよ、なんてお節介だ。風呂に入ってキシキシとした髪や塩でべたつく身体を洗いたかったのに。
仲直り
戻れるのなら戻りたい。でも、忘れてほしくない。
両立なんてできない願望達が俺の中でずっと喧嘩をしている。俺は、どれを選べばいいのか。どれを選べば俺は一番納得できるのか。
いいきっかけなのかもしれないと、通い慣れた道を進んだ。
玄関の前では、魚の焼ける匂いがした。
「おじゃまします。」
引き戸から出る音がもっと小さければいいのに
茶の間に入ると、水着姿で夕飯を食べている遙がいた。
「母さんが、お前にって」
相向かいに座り、おかずを差し出して言った。遙は特に何も言わず、じっと俺を見つめている。ずっと、この瞳に俺だけが映ればいいのにと願っていたのにいざそうなるとなんだか息苦しい。鼓動が早かった。きっと、恋愛感情からくるものと恐怖からくるものの両方。
「やっぱり、俺をからかってたんだろう」
「はい?いきなりな」
「会いに来なかった。ずっと」
怒っているような拗ねているようなそんな声色。信じてもらえていなかったということだろうか。それにしても、唐突だ。ムードもへったくれもない…俺も人のことを言えないけど。
「前にも言った。本気だよ。」
「じゃあ、証明してみせろよ。そうじゃなきゃ信じられない。」
遙がテーブルを沿って此方に近づいてきた。ご飯はいいのかだなんて言っている余裕は俺に無い。そんなこと二の次とも言う。
向かい合って、目が合う。逸らせない。
「本当だって、こんなに心臓がバクバクいってるんだから。」
「それじゃあ信憑性に欠ける。」
バッサリ
他にどうしろって言うんですか。朝とは別の意味で泣きたい。好きの伝え方とか言葉しか知りませんよ。押し倒せばいいんですか。それってどうなんですか。
ずいと遙が距離を詰めてくる。吐息が掛かりそう
自分のものか遙のものかの磯の香りの中に遙の匂いを掬い取った途端、それまでぐるぐると旋回していた感情が何処かに飛んでいってしまった。情欲に吹き飛ばされたらしい。
キスがしたい触りたい
もう何もかもがどうでもよくなって、自ら近づた時、遙が目を見開いた。
「勃ってる…」
岩鳶のジャージにテントを張ったのは俺のペニス。思春期のせいです。いや違います。本当は俺が勃起しやすいだけです。
「好きだからな…」
恥ずかしい。勃起を気付かれたことも、今のセリフも。
「脱げ」
「やだよ」
「いいから」
何を突然言い出すのこの子。期待するよ、期待しちゃうからやめてくれ、いややめないでくれ。どうせならこのままいけるとこまでいきたい。そんな気持ちから、俺のズボンに手を掛ける上半身裸の遙を止めることもなくされるがままになった。こんな光景もう二度と見れないかもしれない。トランクスに手を掛けられた時、心臓が肺をつきやぶるんじゃないかと思うくらい振動が伝わってきた。
布に隠されていた俺のペニスが外気に触れる。遙が俺のペニスをまじまじと見つめていた。
「本当に、俺のことが好きなんだな」
なんでちょっと引き気味なの。こんな格好にしたの君なんですけど。
引いてるってことは答えはまあおのずと出てくる訳で。悲しいけれど想像通りだ。仕方ないアブノーマルな俺が残念だったのだ。悲しい、こんなに好きなのに。
せめて理由が同性だからではないといい
そんなセンチメンタルなことを考えつつも、今を喜んでいる俺もいた。
遙とこんな状況になれるだなんて、それだけでも宝物ではないか
「遙」
名を呼んだ。
興奮するペニスを扱きたいのを必死で押さえこんで、今できる最大限の行動を
「拓也、俺も勃った」