The prime

□lip
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「遙ー俺雑誌忘れてったー?」

家に帰ってゆっくりとしながら読もうと思っていた雑誌が紛失した。自分の家に無いということは、もう幼馴染の家にあるとしか考えられない。丁度、昨日遙の家に遊びに行ったことから、もう家の何処にあるかも目星は付いていた。

居間の扉を開けて声を掛ける。
玄関の靴からして水泳部が揃っているらしい

「あー!たっくん!いらっしゃい!」

「渚が言うんだ。まあ、おじゃまします?」

「はい、いらっしゃい。」

「雑誌ならここにあるぞ」

真琴の天然はスルーだ。俺の関心は遙と遙の手元にある雑誌に向けられているから。

「やっぱりここにあった。昨日忘れてったんだなー」

クシュンッ

「ん?風邪?」

「ああ、ハル、まだ4月なのにプールで泳いじゃって」

「そりゃあやっとプール整備が終わって嬉しかったと言ってもね!」

「…ハァ、まったく馬鹿ハル!」

「なんだ」

「ムッとしてもダメ!いいか、今度そんな危ないことしたら俺本気で怒るからな!」

そう、いくらその上目使いからのムッとした顔が可愛かったとしても、許せないものは許せない。小学生のころもそうして無理をしてこの馬鹿は入院をしているのだ。

「本気で怒ってど」
「わあああハル!ここは拓也の言うこと聞いて!」

「…」

「わかった?」

「ああ」

「約束は?」

「…する」

ここまでを聞いて、俺はやっと腰を下ろした。

「よし、熱はない?」

純粋な心配からの質問だったが、ここで額と額をくっつける動作を素でできない俺のばか!それか素で無くとも確信犯でスマートにできない俺のばか!

「ない、心配しすぎだ」

「心配もするよ、お前は…なんか放っておけないから」

大事な人だとかさらっと言えない俺のばか!
いや、真琴とか渚がいるのだから言えなくて正解だったのかもしれないけれども…でもでも…

「なんでまこちゃん間に入ったの?」
「拓也は怒ると怖いからね」
「へえ、僕たっくんの怒ったところ見たことないや」
「まあ俺も一回しか見たとこ無いんだけど…」


「ふーん。あ、もうこんな時間!僕そろそろ帰るね。」

「俺も。今日母さんにお使い頼まれてるから」

「おー2人とも気を付けて帰れよ」

「真琴、俺が片づけるから茶碗はそのままでいい」


2人が帰るのを見送って、俺は未だ雑誌に目を通している遙を見る。


「遙」

「なんだ」

「こっちを向きなさい」

「なんで」

「お、お仕置きをするからだ」

「なんでそんな恥ずかしがることを言いたがるんだ」

「うるさい」

「で、なんのお仕置きをするんだ」

「お、」

「お?」

「俺の髪を洗え!」



***


一杯一杯でしたお願いがこうもすんなり通るとそれはそれで恥ずかしい。
遙にリンスまでしっかりしてもらった俺は、湯船で遙と向かい合っている。普通の一般家庭の湯船は男2人が一緒に入ることなど想定していないわけで、遙の脚が俺の腰に当たり、俺の脚もまた遙に触れている状況。

「具合は平気か?」

「は?」

「俺、お前が風邪ひいてるのに労働系のお仕置きを…」

「何を今更後悔してるんだ。お前が言い出したことだろう。」

そう、今さらなのだが反省をしている。遙に髪を洗って貰いたくとも普通に過ごしている時には言いだせないからとて、今日でなくても良かったのではないかと
お仕置きの誘惑に勝てなかったことが悔しい。

遙の視線が辛くて波打つ湯を眺めていると、顔面にお湯が飛んできた。
遙が水鉄砲をしたのだ。

「そんな顔をするな。本当に平気だから」

少し眉を下げた遙が可愛い
遙は大抵強がる。だから、毎回俺はそれが本当なのか強がりなのか迷うのだ。
もう、あの時のように見えない何かに追いかけられているような恐怖を味わうのは嫌だから。
今回は、この表情からして信じていいらしい。それならいいのだと言葉を掛けようとすると、遙が俺に寄ってきて俺の両頬に手を添えた。その青い瞳を閉じて俺の唇に遙のそれをくっつける。

一緒にお風呂に入るのが初めてではないから、温まった唇がどれだけ柔らかいのかはもう知っている。俺はこの感触が大好きだ。遙がいい加減にしろというくらいにキスをするくらいには


俺との距離を少し開けた遙が言う。

「元気出たか?」

俺がこのキスを好きなのを分かっていての行動なんだろう。それにしても変な話だ。具合が悪いのは遙の方だというのに

頷いて、今度は俺から距離を詰め、同じようにキスを返す。

「早く治せよ」

「ああ」

そう言った遙かの声はいつもより甘く響いた。





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