The prime

□espouse
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「正式に水泳部に、入れてください!」

渚に引っ張られて、グラウンドで竜ケ崎くんを見つめていると予想外でとても良い展開。良かったなの意味を込めて俺の隣の遙やその奥にいる渚を見る。

「本当に!?」

「泳ぎたい奴は泳げばいい。」

そう言った遙が此方を向く。それはもしかして俺にも言っているのかと思ってしまう。嬉しそうな皆の声と正反対の自分の気持ち。俺は遙からの視線を逸らすことしかできなかった。



帰り道、他の皆や真琴と別れた後の道を俺は遙と2人で歩く。
いつもなら2人きりになった後すぐに俺が手を伸ばして繋ぐ手は今日は離れたまま

無言の中、遙がそっと手を伸ばしてきた。それを俺は何も言わない。気持ちが変わったわけではない。勿論、遙とのこの交わりは嬉しいけれど、もう限界だった。水泳に関する期待も恋からの嫉妬ももうこんなのは嫌だった。
これが最後の遙とのデートかと思うと涙が出そうになるのを必死で堪えた。自分の選択で悲しくなるだなんて馬鹿らしかった。

遙の家に着き、玄関の扉を閉めるなり俺は遙に切り出した。

「もう、やめよう。こんなのは駄目だ。」

「?何を急に」

「俺は、遙の身体が欲しいんじゃない。遙も俺の心が欲しいわけじゃないだろう?だったら駄目だ。今の関係は怖いくらい気持ちがいいよだけど同じくらい苦しい。だから、ごめん。ごめん、今まで…ありがとう」

最初は、顔を見て話そうと思っていたのに、だんだんと苦しくなって、今は玄関の床を見つめている。

「勝手に話を進めるな。なんでわからない。好きかもしれないって言っただろう。」

溜息と共に遙はそう言って、俺の両頬に手を当て顔を上げさせる。嫌でも遙と目が合った。

「だからあれは…」

「なんで信じない。お前は俺を信じられないか?」

「信じてるけど、お前の心までは分からないよ」

「そんなの俺だって同じだ」

流れた涙を遙の親指が拭う。その動作の優しいこと

「好きって何だとか言ってたくせに」

「拓也だってきちんと説明できなかっただろ。それに、俺とお前の感じ方は違うんだろう?だったら」

ずいっと近づいてきた遙の顔。夕方の暗くなる頃合いの中、しっかりと顔が見える距離に俺たちはいた。

「俺の今持っている感情が恋だ。」

そう言うと、遙はもう話しは終わったとばかりに俺から離れ靴を脱ぎ、家の奥へと向かう。

「どうした、一緒に入らないのか?」


***


「急に、怖くになったんだ。恋愛も水泳も。だから逃げたくて」

先に身体や髪を洗い終えた俺は湯に浸かりながら遙に話掛ける。

「俺は、もう付き合ってるものだと思ってた」

遙は髪を洗いながらそう言った。なんて自由な子。いつどうなってそうなっていた。
髪が泡立ってるのが可愛いとか、身体は右手から洗うとか俺しか知らない遙。そんな単純なことでスッキリしていく感情。我ながらちょろいけれど面倒な性格をしている。

遙はきっと、今の会話で水泳のことよりも恋愛の話しを先にしたことを俺がよろこんでいるだなんて知りもしないんだろう。

「俺が泳いでいて隣のレーンに拓也が見えると、潜って音に集中してる時のお前の顔が浮かぶ。その時の俺は感情はお前に向かっているのに身体は水と近くなれる気がする。」

遙が俺のことを話す時は生きていて良かったと思えるくらい嬉しくて舞い上がる。それに、遙の感情まで聞けるだなんてこんなに良いことがあっていいのだろうか。しかも今日は本当に遙と恋人になれたという最大のプレゼント付きだというのに

「あの感覚はお前しかくれない。だから、俺と泳げ」

神宮拓也は、この日、2つの意味で七瀬遙に口説き落とされました。
シャンプー中の可愛い姿でそんな格好良いこと言って、遙は俺をどうしたいんだろう。
どうにかなってしまいそうです。

「泳げるマネージャーでいいなら喜んで?」

そういうと遙は嬉しそうに微笑んでくれた。



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