The prime

□ending
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遙の家のテーブルにケーキを置くと遙は呟いた。

「お前は毎年このケーキだな」

ケーキ屋さんのホールケーキでもない。スーパーのチョコレートロールケーキ
この甘ったるさが嫌いではないし

遙が甘い甘いと言いながら、ゆっくりゆっくり完食するのを見つめているのが好きなのだ。
時々、視線をテレビに投げたり、ロールケーキのどちらにフォークを入れようと視線を揺らす遙が可愛くて堪らない

「俺が好きだからね。でも、今年はこれだけじゃないんだなー」

遙が何も言わずに俺をじっと見た。
これはわかっていて黙っていると思ったので、俺は続けることにする。

「遅くなったけど…」

手にしていたフォークを置き、遙の後ろへとそろそろ移動する。
ぽっけから取り出した包みを開いて、きらりと光る其れを遙の首に掛けた。
上手く引っかからなくて少しだけもたついたが、遙は何も言わずに待っていてくれていたのでよしとする。

「誕生日プレゼント」

黒皮にシルバーのサイド、中心に光るのは、年始に祖母の所へと赴いた時、近所の工芸所で作ったものだ。
縛っておきたいから、なんて理由でこれにしたとは口が裂けても言えないけれど

「ありがとう」

俺の作ったガラス玉をつまんで遙はじっと見つめる。

「思いっきりお前の趣味だな」

そう言って遙かが笑うから

「嫌いではないでしょ?」

少しだけ格好付けたくなってしまう。
本当は、すごく悩んだ。けれど、折角作ったものだし、見てほしかったのだ。

「悪くはない」

遙のこの言葉が聞きたかったのだ。

「きっと、日焼けした遙にも似合うよ」

にやけるのを止めることなく、遙に伝えた。
青に、金のラインを混ぜたガラス玉

遙の瞳の青と、海の青、どちらも太陽に照らされて金色の光を放つ
その色が美しいと思うから


「お誕生日おめでとう、遙」

「…ありがとう。拓也」

「なに?」

「俺はお前と泳ぐのが好きだ」

何のカミングアウトだと、疑問に思いながら続きを促す。
何を、遙は俺に伝えようとしているのか

「ん?うん」

「お前といるのも楽で好きだ」

楽が良いとは喜ぶべきか普通悩むのだけれど…
遙が良いと言うのなら、それは俺にとっても良いことなのだろう

「うん」

そんなことより俺は、続きが気になるのだ。
続きに期待してしまうのだ

「俺は、お前が好きだ」

「お、俺も大好きだ!遙!」

待ちわびた瞬間に、返事のスピードも速いしなによりどもるという失態をした俺。
でもいっぱいいっぱいな俺は、そんなことを気にしていられない

ギブアップというやつだ
最初の告白はロマンチックなものにならなかったからこそ、はじめてはロマンチックに大人っぽく、そんな風にシュミレーションしていたのに

遙を押し倒し額に両頬にと顔にキスを落とす

「好き、好きだよ」

「そんなに喜ぶなら、もっと早くに言ってやればよかったな」

可愛いのに格好いい遙は、俺のことを好きだと言い、その感情が恋だと言った。
長かった片思いにこんな風な幸せが待っているだなんて過去の自分は思ってもみなかったけれど、意外とこの世界は上手くいくものだなと感謝せずには居られない。
神様を信じている訳でもないけれど、この現状を生んだのが神様なら神様にその他ならその他に感謝しよう

二十歳になる前に、幸せを手に入れた遙と俺は二十歳になった時、何になるのだろう
ただの人なのか、それとも

「おい、ホイップクリームが付いてるぞ」

遙が呆れたような声で呟いて、距離を詰めてくる。
上唇少し上に舌の体温と感触を感じたらもう、考え事などどうでもよくなってしまった。

「遙こそ、付けてるよ?」

遙の舌が好きだ
遙の性格が好きだ

「?付いてないぞ」

指で唇をなぞった遙が事実を伝えてくる。

「付いてるってば」

俺はそう言って、遙にキスをした。
遙の全てが、好きだ

棚には小学校の写真と去年の地方大会の写真、そして岩鳶のプールで皆笑顔の写真が飾ってある。
あの写真と同じように今、俺も遙も笑いながら、こうして一緒にいる。

因みに今の遙は、心の中で微笑んでいる


END.
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