The prime

□release
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花の高校生になって初めての夏。地球温暖化によりじりじりと日差しが肌を焼く。蚊取り線香の香りを目いっぱい吸い込みながら俺は家を出た。俺が生まれる前からいる鯉の池の脇を抜け、今日も今日とて幼馴染の家へと向かう。

何度もうちの池に飛び込もうとする遙をその度に叱った結果、この池だけは露出癖を発揮しなくなった。真琴には、他の場所でも脱がないよう教育してくれと頼まれたが、一か所の躾で力付きました。

階段を上る足を止め、振り返って海を見つめる。
波の音が聞こえる気がした。


「おじゃまします。」

いつだったか、競泳という競技にでない遙に勿体無いと伝えたことがある。あの時の遙の瞳の揺れは今でも忘れられない。

茶の間に姿が見えないということは、もう遙の居場所はひとつだろう。

水と戯れるのを邪魔する気はないので、くつろがせていただくことにした。風鈴の音を聞きながらぼうっとしていると、不思議と眠気が襲ってくる。ぼんやりとした思考の中で、小学生の頃の遙を思い出していた。


彼に対する感情が恋慕だと気付いたのはいつだっただろう

彼に対して欲情していた時だっただろうか
水を見た瞳をずっと見ていたいと思った時だっただろうか


「おい、起きろ。」

「…遙?」

「そんな所で寝ていると脱水症状になる。」


髪から滴る水滴が鍛えられた肌に落ちていた。
ちゃんと拭かないと風邪を引くだろうと心配しつつも、触れてみたいと思ってしまう。自覚してからの俺は、遙に触れることに酷く臆病になっていた。

怖がっているくせに、何処か俺は強気で、伝えたいと思ってしまうのだ。
この気持ちを

今のように穏やかな空気が流れるこんな時に


「好きだ」


カラリと遙が淹れてくれただろう飲み物の氷が何かを俺に告げてきた。

やらかした
青い瞳が見開かれたのを見て、俺はようやく自分の行動の浅はかさに気付いた。

「正気か?」

今なら引き下がることもできる。きついけれど冗談にしてしまえば表面上だけでも今まで通りの生活でいられる。けれど俺は、


「正気かはわからないけど、本当。遙が、好きなんだ。」

可能性の少ない、この先の幸せを望んでしまった。思春期は貪欲だ。
ただの人になる前に、俺は希望を叶えたい。
初めての告白が、寝ぼけていてムードもなにもないこんな形になるとは予想外だったけれど。


「そうか。」


まさか、それだけでこの話がお流れしてしまうだなんて俺は想像していませんでした。俺としては返事待ちでずっと黙っていたのだけれど、遙の中では完結していたらしい。今更、返事頂戴と言えるほど今の俺に度胸はありません。眠気も飛んでいってしまったし

ちらりとテレビを見ている遙に視線を投げる。
こんな時、もう1人の幼馴染が羨ましいと思う。俺は、同じ時間遙といるのに、何を考えているかだなんてちっともわからない。わかったらよかったのに。そうしたら、もっと遙の中で大きな存在になれたかもしれないのに。

真琴に嫉妬まではしないものの、1人だけ違うクラスになったことを俺は今も引きずっていた。





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