The prime

□shake
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「帰るぞ。」

昨日の言葉が本気だったことは、放課後になった後やってきた遙の言葉でわかった。今日一日中そわそわしていた俺が報われた瞬間。

「おう」

わくわくしているのが声に表れていないだろうか。遙にばれているとしたら恥ずかしくて死ねる。でも、そんな俺に気付いてくれるってことはきちんと俺を見ていてくれているっていうことだから…

「早くしろ」

馬鹿みたいな考えは、一言によって頭の隅っこに追いやられた。わからないことを考えて浮き沈みするのは一人でもできる。今は、遙と一緒にいないとできないことをしよう。卑猥な意味だけでなくいろいろと

「遙、海に寄ろう」

「当たり前だ。何の為に水着を着てきたと思ってる。」

本当、水泳馬鹿。

「何を笑ってる?」

「なんでもない。でも今日は泳ぐなよ、波が高いから危ない。」

「嫌だ」

少し違う歩幅を遙に合わせながら歩くと、自然に歩みは速くなる。こいつは早く海に行きたいのだ。頭の中を泳ぐことでいっぱいにさせながら、瞳をきらきらさせているのだろう。なんでこんなに可愛いんだろう。

すぐ横で揺れる腕を気にしながら俺たちは海へ向かう。あと数十センチで手と手が触れる。付き合うだとかそういう明確な関係に無い俺たち。手をつないでいいものかと俺は悩んでいる。葛藤している。
いつもの浜辺へ続く脇道へ反れようとすると、俺の指が遙の指と重なった。

「遙?」

「今日はこっちじゃない。潮だまりに行く」

「ああ、あの西にある大きいやつのところか」

「行くぞ。」

遙が俺の手を引っ張る。潮だまりに着いても、手はつながれたままだった。タイミング最高だ。何にも考えていないんだろうけど、遙はいつもいつも俺が欲しいところで欲しい物を自然とくれる。同性でも惚れるというものだ。

普段は水で覆われている岩が見え、大きな窪みは海水で満たされている。しゃがめば、人が潜れるくらいの深さだ。泳ぎたい派の遙がこれで満足するとは思えないが、無いよりはましなのかもしれない。鞄を足元に置く。
そんなことを考えていたら、左手の温もりが消え、布の擦れる音がした。出たな、露出癖。いつものことだと、ストリップをじいっと見つめていると、遙が此方を見た。俺ではなく、先にある海を見たのかもしれない。

そんな考えが頭の中を駆け抜け終わったころには、俺の耳に遙が潮だまりに飛び込む音が入って来た。狭い所ではしゃぐと怪我をする。注意しようと潮だまりを見やるとこんどこそ遙は俺をじっと見ていた。

「お前も入れ」

「いや、俺水着な」

言いきる前に、引き寄せられて制服のまま海水にダイブしていた。
よく考えなくても、濡れた服のまま帰るだなんてごめんだということくらい分かるだろうに。

「はーるーかーちゃーん」

「拓也」

「何、俺ちょーっと怒ってるんだけど」

「キスがしたい」

呆然として何も言えずにいると、遙は俺に顔を近づけてくる。拒否なんて選択肢のない俺は、内心あわあわしながら取り敢えず目をぎゅっと閉じた。

初めての他人の唇の感触。柔らかくて温い。ふにふにと何度か感触を楽しんで目を開けると遙はまだ目を瞑っていた。目を閉じた遙は、何処か大人びた顔になると思う。負けずにと、遙の頭に手を当て噛みつくようにキスをした。遙の唇を吸うように、唇を動かす。なんでだかわからないけれど、止めたくなかった。波の音、潮の香りの中俺たちは口づけを続ける。
一昨日とは違う、良い雰囲気の中

舌を絡ませずとも、若さゆえに反応する。興奮は、そう簡単には収まらない。

「遙の家に寄ってもいい?誰かさんのせいで制服びちょびちょなんだ」


***


遙の家の風呂に2人で入った俺たちは、シャワーの湯を浴びながらキスをした。海のものとは違う、舌を絡ませた深いキス。
遙の舌は、赤くて甘くて厭らしい。新しい遙の魅力を発見した。勿論キスだけでなんて終われずに、俺たちは以前と同じようにペニスを重ねて性を放った。

その後は、遙の髪を洗ってやって、逆に洗ってもらって…

付き合っていないとかが嘘のような幸せな時間を過ごした。
空がオレンジから濃紺のグラデーションに染まる中、一人歩きながらやっぱり遙のことを考える。嬉しいけれどこれでいいのかと
俺はこの先、これらの行為を恥じたりしないし大切に胸の中にしまって生きていくけれど、遙にとってはどうなのだろうか

この記憶が未来の遙を苦しめたりしないだろうかと
もしそんな未来があったとしたらと俺は怖くなるのだ。怖くて堪らなくなって、そして遙に会いたくなってしまう





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