The prime
□invitation
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”たっくんと泳ぐと何だか優しい気持ちになるから、僕好きだよ!”
”僕ね、ハルちゃん達とメドレー出られることになったよ!”
「ねえたっくん!水泳部入ってくれるよね?」
葉月渚は再会の喜びもそこそこに俺にそう言った。
昔を思い出す。自分から逃げたはずだ。それなのに、苦しい
***
遙がインフルエンザで倒れた。
泳ぎたがっているのにそれが叶わない遙。その代わりにでもと遙の分も泳ごうと、俺は久々にクラブへ自主練に来たのだった。
いつぶりだろう
そう考えながら、バックブレバッタフリーと泳ぎ終わりゴーグルを外す。
「お前、なんでそんなに音を立てる泳ぎ方なわけ?抵抗になるだけじゃん」
松岡だった。
「音を立てる…?」
俺は、そんな泳ぎ方をしているのか
松岡が1つ1つの種目ごとに駄目な所を話していく。お前、ずっと俺の泳ぎ見てたのか
「松岡って、」
「ん?」
「面倒見いいのな」
「は?俺は別に…ただ気になったからだなあ!」
「メドレー頑張れよ。」
優勝するんだろ?
そう言い残して俺はプールから上がり、更衣室へ向かった。
お前も出るんだよ!なんて言葉は聞こえないふりで
もう一度本気になるのが怖かった。もし、松岡に言われたところを全て直してそれでもタイムが伸びなかったら。俺は、この気持ちをどうしたらいい?
再度試してみて結局燻ったままだなんて冗談じゃない。だったら今のままの方がいい。
今の方がラクだ。
***
「えー俺、図書委員あるしなー」
「委員なら両立できるでしょお!マコちゃんとハルちゃんも何か言って!」
「んー拓也が決めることだしね」
「好きにしたらいい」
「2人ともー!」
「ほら、どうせなら女の子っぽい名前の子のがいいだろ?」
「いいの!たっくんは特別枠!だって僕、たっくんと泳ぐの好きだもん!」
リフレイン
小学生の頃の思い出が頭に過る。
純粋に嬉しい。でも、
ちらりと遙を見る。
遙と目は合わなかった。
「あ、俺天ちゃん先生に呼ばれてたんだった。ちょっと先に行くね。」
「そういえば、僕も午後一の授業体育だから着替えないと」
「じゃあ一緒に行こうか。」
「うん!ハルちゃんにたっくん授業サボったら駄目だからね!」
「遙はともかく俺については安心して行きなさい。」
「ちょっと拓也、ハルもちゃんと教室に送り届けてよ?」
「善処します。」
2人がいなくなって屋上が静けさに包まれる。
昼を食べた後の気だるさといったらない。いやだな、次は古典だ。絶対来る…眠気さんが…
「拓也」
「なーに遙」
「本当に、水泳部に入る気はないのか。」
遙がまっすぐに俺を見てそう言った。
俺の感情を抜きにして”ない”と言うことは簡単だ。そうしたら、もうきっと遙は俺を誘ってくることはない。多分
「…わからない」
俺は、そうとしか返せなかった。