The prime
□throbbing
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いつもの無表情で黙々とプール整備を続ける幼馴染の姿を俺はぼうっと校舎から眺めていた。昼休みの時間まで水泳部の為に割くのかと思わなくもない。何を急にやる気になったんだと聞きたくなるほどには
3人が松岡と再会したことは真琴から聞いていた。中1から競泳をやめていた遙。
それが今急に心変わりするだろうか。何かがあったのは明白だった。
遙が態々鮫柄に行ったという事実が先を尖らせて俺をちくちくと刺してくる。渚が上手いこと乗せたのだろうなんてことは簡単に予想できるのに
遙が何を思って行動したのか
本心からすると、俺は遙に聞きたくて堪らなかった。
"拓也は水泳部に入らないのか"
中学に上がりたての頃、そう聞いてきた遙に俺はクラブで十分だと答えた。あの時、それだけで泳ぎ足りるのかという表情をしていた奴が何故競泳をやめたのか。高校も水泳部がない所を選択したのか。
俺は、松岡に嫉妬している
今までの、そして今の遙の変化が松岡が原因に思えて仕方ないからだ。
「拓也」
「っ!びっくりした…真琴か」
「何だか辛そうな顔してたから、具合でも悪いの?」
心配性の幼馴染は俺の顔を覗きこむ。昔から、俺は真琴に背比べで負けっぱなしなのだ。
「なんでもないよ。それにしても、大変そうだな。プール整備」
「そうだね。でも、楽しいよ、昔に戻ったみたいで。」
「そっか、まあ頑張れ」
そう言い残して、俺は自販機へ向かった。
水泳馬鹿に水分を与える為に
***
日差しはもう強いのに、プールに入るにはまだ寒い。そんな季節
小学校での少し冷たいプール開きを思い出す。
「遙」
「拓也か」
「拓也か、じゃねーよ。飯も食わずに何してんの。ほらこれ飲め」
「…悪い」
「チョイスに不満がありそうだな」
「別に」
遙に休憩させようと、プールサイドに腰かけると、遙かも此方にやってきて俺の隣に腰かけた。この近すぎず遠すぎずな距離感が嬉しいようなもどかしいような、複雑な気持ち。
遙が苺ミルクのパックにストローを刺すのを眺めながら俺は笑った。
想像通りだ
「似合わなくて、可愛い」
「…」
「えー無視?」
「お前の馬鹿な言動にいちいち反応してたら疲れる」
「酷いなー」
遙は、嘘はあまり言わない。でも気が使える良い男だ。
俺だったらあまり口に出さないだろうことでもさらっと発言できる力を持ってる。時にはそれが原因で困ることもあるけれど、腹の中を探りながら関わらなくていいのはとても楽だ。楽で安心できる。
「…」
「…」
「なあ」
「何だ」
「部員、足りないんだって?遙も勧誘すんの?」
「俺はしない。」
「イワトビちゃん作成係?」
手先が器用で、もともとそういう作業が好きな遙が渚に見せてもらったイワトビちゃんを作っているのを想像すると可愛くて仕方がない。背中から抱きしめて頬ずりをしたい。それできっとその後は遙に邪魔だのなんだの言われる妄想の中の俺。
「違う。お前が入るから、もう部員は足りてる。」
そう、遙は俺を見て、瞳を揺らめかせながら呟いた。
「プール整備手伝ってくれてありがとうな」
そう言った遙の口元が緩んでいたことは見えていたのだけれど、俺は心がいっぱいになっていてそれどころではなかった。人間、2つ大きな感情が生まれた時には取り敢えず自分優先らしい。
胸キュンというやつだ。これは
だって、誰にもばれない様にこっそりと草むしりをしたのに
初恋相手の幼馴染にはやはり勝てない。
そう改めて思いながら、その日の夜、俺は遙かの微笑みを思い出してはベッドの上で悶絶するのであった。