〈書庫 妄想の塊2〉

□プチトマト
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夏も真っ盛り。
冷蔵庫の中はいつにも増して混雑を極める。野菜室も同様、普段は入れないはずのネギやらジャガイモやら押し込められ、満員電車さながらである。
その中で、引き出し部分の隅の方。プチトマトが三つ、額を寄せ合い何やら熱心に話し込んでいた。

「なぁ、どうする? 後三日もないと消費者期限が告げているぜ。」
あえて気楽な感じを出した口調で、角を陣取っているプチトマトが言った。

「そんな事分かってるわよ!! うるさいわね、マートッド。だからこうして集まって話してるんじゃない。」

イライラを隠す気もないらしく、半ばキレ気味なプチトマト。ともすれば口論となりそうな二人を制するように、もう一つのプチトマトがいった。

「まぁまぁ、二人ともそんなに熱くならないでよ、マートッド、トマトニー。今から熱くなってたら、三日経つ前に腐っちゃうわ。 明日が勝負どころなんだから、ね!! 今、こうして話し合ってる理由、忘れてないでしょう。」

穏やかかつ力強い押しに、二人も口をつぐんだ。

「いい? この作戦が成功しなかったら、私達本当にお陀仏よ。」

あえて失敗した時の事を話し、相手を冷静にさせる。トマーラのお得意技だった。

「このタイミングを逃せば、もう機会は無いの。だからこそ、ちょっとでも成功率を上げたい」

静かな口調でも、トマーラの熱意は痛いほど伝わってくる。

「はいはい。分ぁってるっての、トマーラ。」
「ったく。マートッドのお陰で変な方向に気合いが削がれていっちゃうじゃない。」

二人ともあえて軽口を叩いているのだと、トマーラも察した。

「ふふ。じゃ、トマトニーの気合いがマートッドに持っていかれないうちに作戦会議を進めましょう。」
「ちぇっ、なんだよ。結局オレのせいかよ。」
「まぁいいわ。マートッドごときに吸いとられる私の気合いなんてないんだから。」
「んだよ。」

この三人が揃うと、作戦会議と称した馴れ合いの場と化していく。

もう、夜は更けていくのに…
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