〈書庫 妄想の塊2〉

□プチトマト
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野菜には意思がある。
何故、意思を持つかは定かではない。
ただ、大地の恵みと空の恵みで作られているから。と言ってもあながち間違いではないのだろう。


プチトマト達の会議が行われた日の朝。
彼らは元々、とある少年の朝ごはんとして出されたものだった。だが、不幸なことに少年はトマト嫌いだった。しかし残せば母親に叱られると思ったのだろう。咄嗟の行動で、食べたと偽って、母親に見つからないよう冷蔵庫に戻してしまったのだ。

彼らにとって、それが堪らなく許せなかった。
自分達は野菜として生まれてきた。それは分かっている。食べられることは運命と知っていた。不満はない。でも、他の野菜が黙って捨てられていくのを幾度も見た。だからせめて野菜の意地を貫き通したいと強く思ったのだろう。天命を全うしたいと。

彼らを突き動かすは、誰かに食べてもらいたい、その一心。
このまま冷蔵庫で朽ちるのは御免だと。

彼らなりに知恵を絞り、一つの作戦を思いついた。
少年に出されるおやつに紛れ込むというもの。
事の半分を冷蔵庫で聞いていた彼らは知っているのだ。母親は少年はトマトを食べたと思っている。その少年の前に再びトマトが現れたのなら、彼は事の次第がバレないように食べようと、なかったことにするのではないかと。

あまり確信はないけれど、彼らなりの意地の通し方だった。



皿の上のスナック菓子に紛れ、プチトマト三つが潜んでいる。
トマトの赤色は、薔薇のように情熱を感じさせたり、紅白の紅のように縁起が良いわけではないけれど、太陽の元気を率直に感じさせる、そんな代物だ。

だからか、トマーラ、トマトニー、マートッドの間にナーバスな空気が流れることはない、のかもしれない。
彼らはその時が来るまで、互いを見つめあい笑っていた。

ガチャリ、扉の開く音がした。
運命の時は訪れたのである。


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