〈書庫 戦国/BASARA〉

□月陰に
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戦国BASARA宴 佐助ストーリー



「たい、しょ…ぅ。」
「やれ、だから起き抜けのアレは手に負えぬと言うたのに…ヒヒッ。」

刑部が嘲笑ったのは、天守閣に横たわる一つの屍。無念と謝罪つをごちゃ混ぜにした表情を浮かべ、決して動きはしない物と成り果てた、猿飛佐助その人であった。
「秀吉様の城が穢れる…。さっさと始末をさせておけ、刑部。」

既に興味すら失せたのか、屍には一瞥もくれず、三成は早々と立ち去ろうとしていた。

「アイ、分かった。」

不機嫌の塊と化している三成の背中にそう声をかけ、人を呼ぼうとしたその時だった。
先刻まで雲一つ無かった夜空が、いつの間にやら曇り、太陽に負けず劣らずな光を放っていた月を雲が覆い隠した。
寸の間闇が濃くなり、再び月が顔を出す。その月明かりを浴びた途端、佐助の屍がすぅっ―――と。跡形もなく、まるで光に当たり蒸発したかの如く、掻き消えた。
「なっ!?」
「どうした、刑部ッ―――!?」

事の次第を目の当たりにした刑部も、振り返った三成も、声が出ない様子だった。

つい先刻死んだはずの佐助は、もうそこには居なかった。




佐助は部下達に命令を下した時から一歩たりとも動かず、あの瓦屋根の上に居た。既に部下達は下がらせたのか、周りに人気はない。
佐助の口元には、分かるか分からないかくらいの、冷やかな笑みが浮かんでいる。

「今宵の猿はアンタだったのさ…大谷。」

佐助はちらりと大阪城を見やり、そう静かに宣言すると、宵闇へと飛び退いた。




「私は…確かに、あの曲者を斬った。」

三成は呆然と呟いた。
天守閣に沈黙が落つる…。
屍があった所をただ見つめる二人。その姿を皮肉な程、煌々と輝く月が照らした。
やがて、何を思ったか狂ったように刑部が笑い出した。

「ヒヒッ。これは完全に一杯食わされなんだか」
「何が可笑しいッ!! どういうことか説明しろ、刑部。」
「なに、簡単な話よ。われとぬし、最初から猿の影に踊らされていたなんだ。若手の猿回しよな、猿を回そうと思って、逆に回されていたとは…。」

やっと状況を理解出来たのか…声にならない三成の雄叫びが、大阪城の静寂を切り裂いた。



――――ほどなく。
真田幸村率いる武田軍は、西軍入りを果たした。

…同盟を持ちかけたのは、石田側からだったという。


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