〈書庫 妄想の塊1〉

□些細な日常
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「ただいまぁー…ってあれ? なんだ、寝てるの?」
「ん、いや。お帰り。」

奴のリビングへの侵入と共に、ひんやりとした冷気が炬燵に収まっていない上半身を包んだ。『寒い』と文句の一つも言いたい所だったが、長時間炬燵に引き籠って火照った体にはどこか気持ちよく、特に何も言わない。

「晩メシ、まだ食べてないの?」
「あぁ。」
「…ふ、ヨシブミって変なトコで律儀だよね。」

アイツが台所でがさがさとスーパーのビニールの中身をやっているのを方耳に答える。

「作んの面倒だった。」
「アハハ、何? 俺が作るメシの方がウマいって?」

待っていたのも、作るのが面倒だったのも(メシがウマイのも癪だが)事実だ。でも。
俺が住んでいたアパートがボロ過ぎて取り壊しになり、行き場の無くなった俺を、あのアパート以上のボロアパートへ同居人として迎えてくれたアイツの。『優しさ…?ではないな。かと言って同情でもないだろうし。』まぁ、アイツが何を思ったのかは良いとして、俺を受け入れたのは事実。それに応えることは当たり前だろう。メシを待つくらい。
それに。
歯ブラシが色違いで流しにあったり(俺がピンクってのは納得いかないが)、茶碗も二つ揃いであったり(安上がりだからってペアもの買ってくんのもどうかと思うが)俺がコイツの生活へ混じるのを、少しずつ認められているようで嬉しかった。…そんなコト、一生本人には言わないだろうが。

「うどんで良い?」
「味噌煮込み」
「あぁ、温まりそうだね。」
「冷蔵庫…下。おあげ一枚残ってる。」
「お、うまそう。」

ガスの臭いが鼻を掠めたと思えば、ダシの香りが狭い部屋に充満する。

どう考えたって、前のアパートよりも隙間風が唸っているのに。 何故か、温かい。

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