novel

□さよならに、さよなら
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ふたりの辞書に、さよならはない。



帰り道は、たいてい一緒だ。
学校帰り。獄寺くんはいつも律儀にオレを家の前まで送ってくれる。
一緒にいられるのは嬉しいけど、わざわざそこまでしなくてもいいのに。それが恋人というものだ、と言われたら、ほかに経験のないオレは納得するしかないけれど。

ふたり下らないことを喋りながら歩く通学路はなんだか異様に短くて。
きょうも、あっと言う間にもう家の前。
つないだ手に、名残惜しむように力を込める。
「じゃーね、獄寺くん」
「はい!」
さようなら十代目。
言いかけて、獄寺くんの唇が動きを止めた。
と、みるみる顔がゆがんでいく。悲痛に満ちたその表情たるや、まるでジュリエットと引き裂かれるロミオのようだ。見たことなんてないけれど。
(あれ、じゃあオレがジュリエット?…いや、無理だから)

「って、何でそこで涙ぐむかなー!」
「だって…十代目に別れの言葉なんて言えねーっス…!」
彼の切れ長の瞳は、いまにも堤防決壊しそうに潤んでいる。
溢れるのは時間の問題で、しかも一度溢れ出たそれはなかなか引っ込んでくれないことをオレはよく知っている。ほんとうに、きみは大げさ。

「別れって…また明日会うでしょうが」
「それでもいやです!冗談でも言えません!」
ブンブン首を振りながら彼は絶叫する。
あーもう、どうしてくれようこの男。これじゃオレはいつまでも家に入れない。


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