novel

□眠り姫にくちづけを
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オシロスコープの無機質な音が、暗がりに冷たく亀裂を入れる。

だらしなく着崩した白衣姿のシャマルは、ベッドの上に横たわる少年と、その脇に張り付いた日本が三回くらい沈没したかのような悲痛な面持ちの少年を順に見遣り、肩で息をついた。

「ツナ、お前がそこで頑張っててもしょうがねーだろ」
「…ん」

ツナはシャマルを一瞥もしない。視線を縫いつけられたように、じっとベッドの上で眠る少年を見つめている。

「Dr.シャマル、獄寺くんほんとに…」
「大丈夫だって言っただろ、血が足りてねーだけだ。あんなに血ィ流せばそりゃ倒れるさ」

あのあと糸が切れるように気を失った獄寺がこの病室に運ばれたあとも、ツナはその側を離れることを拒んだ。
その強情さたるや、あのリボーンですら「朝までには帰ってこい」と言い捨てて去っていったほどで。

付き添うのは一向に構わないが、そんなこの世の終わりみたいなツラをされてても困る。
獄寺自身は、受けた攻撃を悉く急所から逸らしていたため――曲がりなりにも喧嘩慣れしているお陰だろう――出血以外に危険な外傷はなかった。脇腹の傷も、暫く経てばきれいに塞がるだろう。
だから、問題は――こっち。

何でオレがこいつの世話まで焼かなきゃなんねーんだ…。
思い詰めたようなツナの横顔に、シャマルは呆れたように頭を掻いた。
こうなる事を分かっていたのか、とっとと消えたリボーンが今となっては恨まれる。

「お前にはお前の修行があるんだろ?隼人が何のために命張ったか忘れんな」
「…わかってる」

わかった上での居座りかい。
シャマルは肩をすくめ、ベッドに背を向けた。
脈拍、血圧ともに正常。これなら放っておいても朝には目覚める。

「…ごくでらくん」
少年のか細い囁きに気付き、シャマルは機器を弄る手を止めた。

うわごとのように呟く声が、単調な機械音に紛れて響いてくる。
おそらくツナ自身は声が漏れていることにも気付いていない。

「生きててくれて…よかった」

声が細く震えている。
見なくたってわかる、堪えきれずに溢れだした感情が彼の頬をしとどに濡らしていることは。

ったく、男のために動くのは主義じゃねーんだが…。
しゃーねえな、
貸しは隼人にツケとくぜ。


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