短編置場

□姉と妹
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(姉side)

歳の近い姉妹というのは、何かと面倒臭い。


「姉ちゃん」

日曜日。
昼食時に使った食器を洗っていると、不意に後ろから呼ばれた。水道の水を出しっぱなしのまま振り返ると、部屋に行ったはずの妹がキッチンの入口で何故か仁王立ちしている。

「……なつ、皿も洗えないほど忙しいんじゃなかったっけ?」

確かそうだった。
この二つ違いの妹は、食器洗いの義務への言い逃れにそんなことを言っていた。たった十分前のことだからよく覚えている。

「姉ちゃん、水」

「何、そんな真面目な話なの?」

仁王立ちの妹に指摘され蛇口を絞める。濡れた手も拭いた。

「…で?」

場所をダイニングに移動。長くなりそうなので椅子に座る。後から向かいに座った妹は、ちゃっかり自分の分だけ飲物を用意していた。

「………」
 
そんな横着者に何か言おうかと思ったが、どうせすぐに皿洗いに戻るのだと思い直して、止めた。

「姉ちゃんのクラスにさ、大岡さんって居るじゃん?」

自分の都合とペースで話を始める妹。

「……。あー……」

妹の言いたい事というのが、なんとなく分かってしまい、真剣に聞くのを止めて皿洗いを再開するべくキッチンへ帰還する。

「姉ちゃん!妹の話は最後まで聞く!」

追って来る妹。再び仁王立ち。

「……妹限定デスカ。……あー、居るよ。居るね、なんか、大岡って人」

ちらりと一瞥してから適当に返す。

「姉ちゃん、スバリその人のこと好きでしょ!」

がしゃんっ。
皿を落とした。
良かった、割れなくて。

「…何で」

じろり。
妹を睨む。

「姉ちゃんがそうやって適当な物言いする時は、照れてはぐらかそうとする癖だから」

溜め息。
これだから、歳の近い姉妹というのは厄介だ。

「…いいよ。なつにあげる」

「は?! まだ何も言ってないし!」

「なんとなく判る。余計な問答してる暇無いの。……やるって言ってんだから素直に貰っとけ、馬鹿妹」

「何いきなり口悪くなってんのさ、馬鹿姉! 宣戦布告くらいさせろ!」

「だから私はもういいの。……それよりなつ、ちょっとは淑やかさってものを覚えないと、上手くいくものもいかないよ?」

「ちゃっかり好みまで押さえてるくせに何あっさり譲ってんのさ!」

「…面倒いから」

「姉ちゃんの悪い癖その二!」


……どうしたものか、この妹は。


「その究極的な面倒臭がり、どうにかなんないわけ」

「ならない、無理、やる気皆無。以上」

「だーかーらー!」

「まだ何かあるの? さっさと告白でもして来れば?ほれ、番号入ってるからさっさと掛けな」
 
Gパンのポケットに入れておいた携帯を妹に投げる。不意打ちでもしっかりキャッチしているあたり、彼女も反射神経だけは良いようだ。

「そんな軽々しく個人情報の塊投げんな、馬鹿姉!てか、番号まで知ってるなら自分が掛ければいいじゃん!」

また怒鳴る妹。感情的になると口が悪くなるのが玉に瑕。

「……」

聞こえないフリをして馬の耳に念仏状態に入る。こうすると妹の怒声が清流のせせらぎに聞こえてくるから不思議だ。一種の悟りかもしれない。

どれくらいそうしていただろうか。

「はい、返すよ」

悟りの最中でも怒声以外ははっきり聞こえるらしい。言葉と共にエプロンのポケットに携帯が返却された。

「出かけてくる」

それだけ言ってキッチンを出て行く妹。少しして、玄関のドアが閉まる音と鍵を閉める音が微かに聞こえた。

「……やっと静かになった」

手元を見ると、洗い物の残りは緑茶を飲んだ湯飲みが二つだけになっていた。

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