短編置場
□姉と妹
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(妹side)
歳の近い姉妹ってのは何においても、最も近しいライバルなのだ。
ぱんっ
「……よしっ」
頬を叩いて気合いを入れ、指定した場所で相手を待つ。二コ上の姉の同級生である彼は、すぐにやって来た。こちらに走り寄り、へらりと笑みを浮かべて小さく首を傾げる。
「えーと……なつきちゃん、かな?」
「はい。すみません、大岡先輩。いきなり呼び出したりして」
「いやいや。それで……急用って何かな?」
へらり。
この子犬みたいな笑みが、彼を好きになったきっかけ。
「単刀直入に言います」
まわりくどいのは好かない。だから、あたしはいつも直球。
「あたし、大岡先輩のことが好きです!もし、今フリーだったら、あたしと付き合って下さい!」
腰を折って頭を垂れる。懇願のポーズってやつだ。
「……えと……」
躊躇うような声音。
急速に冷めていくあたしの背筋。
「…なつきちゃん。顔、上げてくれるかな?」
やわらかい声。
素直に姿勢を戻して見上げると、あたしが好きになった、子犬みたいな笑みがあった。
「あのね…まずは、ごめんね。僕は、なつきちゃんとは付き合えない」
(ああ…)
急速に冷めていくあたしの心。たぎっていた何かは、既に無い。
笑みが零れた。微笑なんかじゃなく、それは嘲笑に近い。判ってたくせに突っ走った自分への、嘲り。
「……大岡先輩。好きな人、居るでしょう」
問い掛けではなく、断定。子犬の笑みが驚きに消え、でもすぐにやわらかに笑った。
「…判っちゃうんだね。女の子ってそういうの、勘が鋭いよね」
「相手が誰かも、当てましょうか?──うちの姉、でしょう?」
今度こそ、子犬は驚きに表情をなくす。それがなんだかおかしくて、今度は自然に笑えた。
彼に詰め寄り、下から覗き込むようにして見上げる。
「携帯番号の交換までしてるところを見ると、相当親しい仲なんじゃないですか?あの姉が、わざわざ異性である先輩のを登録してるんだから」
あの極度の面倒臭がりの姉が、わざわざ彼の番号と名前の登録作業をしたのだ。特別でない訳がない。
「…いや、あれはね、僕が自分で入れたんだよ」
「え?」
意外な返答に頭は真っ白。
彼は思い出しているのかクスクス笑いながら説明してくれた。
「前ね、『携帯の番号教えて?』って言ったら『勝手に入れれば』って、いきなり携帯本体を放ってきたからびっくりしたよ」
(…あんの馬鹿姉!個人情報の塊を易々他人の手に渡してんじゃねー!)
あたしの内心の絶叫など知る由も無い大岡先輩は、尚も楽しそうに話を進める。
「でもね?あれで結構、人を選んでるんだよ。見てて気付いたんだけど、気に入らない相手だと目もくれないんだよね」
つまり、彼は姉の気に入らない人種ではないわけだ。そこまではいい。問題は、
「…何で、告白しないんですか?」
これだ。
あの無関心な姉が、少しでも興味を示したのだ。望みはあるはずなのに、目の前の子犬は困ったように、へらりと笑う。
「基本、他人と話すのが面倒なんだって。あんまり機嫌を損ねさせたくないから…ね?」
(かっ!!)
ちょっと待った。
それじゃあ何?
二人は両想いなのに、極度の面倒臭がりな片方にもう片方が遠慮してるから、結ばれない訳?
「馬っ鹿じゃないの!!」
馬鹿だ。もちろんうちの姉が。
「大岡先輩! ちょっとここで待ってて下さい!うちの馬鹿姉、即刻引っ張ってきますから!」
冗談じゃない。さっさとくっつけ、バカップルめ!
と、勢い付いたあたしを再び冷ましたのは、へらりとした、またなんとも和ませてくれる子犬の笑みだった。
「いいんだ。いいんだよ、僕は」
緩やかに首を横に振り、彼はあたしを制した。やわらかい笑みを浮かべて。
「っ…!」
(…帰ったら覚えてろよ、馬鹿姉〜!!)