短編置場
□《妖》シリーズ
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一迅の風が来訪の報せ。
【 あや 】
「おや……。また来たのか」
筆が手を離れ、ひとりでに紙の上を這う。
縦横無尽に、虫ののたくったような奇怪な模様が次々に書き殴られていく。これでも初めに比べれば少しは見られるものになったのだが……
「これ。そなたにも紙をやるゆえ、止まりや」
ぴたり。
筆が止まった。しかしそれはほんの一時に過ぎず、殆どをのたくった模様が占める紙の、まだ僅かに白さ残るところに、一通り教えた平仮名が三つ現れた。
『いやだ』
筆蹟(て)の次は口の聞き方と行儀とを教えなければいけないようだ。
筆を取り返そうと腕を振るが、かわされてしまう。
『はやく かんじ おしえて』
区切られた言葉が顔の前に突き出された。勝手に新しい紙を取り出したらしい。まっさらなところへでかでかと要求が書かれていた。
そういえば、約束していたのだった。