短編置場
□《妖》シリーズ
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今宵は月が無い。
真闇の夜であった。
【 月夜 】
銀狐の訪れまでは、あと半月。
緋影は今側に居ない。
真闇の夜、暇を持て余した私は一人縁側に座っていた。
初めは何であるか判らなかった。見間違いであろうと目を離す。離すと、また動く。
三度目にじっと見つめて居ると小さな黄金の月が二つ、こちらを見返してきたではないか。
驚いた。
ひょこり。
小さく跳ねるそれは、人間の私を恐れることもなく警戒心の破片すら持たない様子で、少しずつこちらへ距離を詰めて来るようだ。
私は黙って待った。
灯を頼む為に緋影を呼ぼうかと思ったが、思っただけで脇に火の灯された燭台が置かれた。
黄金月を贅沢に二つも有したそれは、一瞬あった緋影の気配にも動じず、ついに私の足下までやって来た。
「兎、か」
黒い兎だった。
漆黒の毛並みが蝋燭(ろうそく)の灯を僅かに受けてつやつやと闇に浮きあがる。夜に容易に紛れられる小さな体のうち一際目立つのが、一対の黄金月だ。見上げてくる。