短編置場

□言って。
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「ねえ、たっくん。あたしね、怖いんだぁ」

うつらうつら、微睡みの中にいるようにゆらゆらと言葉が落ちる。

「時々とつぜん悲しくなってね、止まんなくなるの。すごく、たっくんに会いたくなる……」

 会いに来ればいいのに。言葉は声にならずに思考の中を回るだけ。

「でもね、いろいろ考えちゃうんだぁ……。たっくん、お仕事中だよなあとか、今すぐ会いたいなんて言っても困るよなぁってね?」

 ……本当に、馬鹿だと思う。それこそが既に考え過ぎに陥っていることに自分で気付いていない。

「お前、ほんと馬鹿だね」

 小さな子供にするみたいに、頭に手を置いてくしゃくしゃに撫で回す。髪型が乱れようが構わない。

「……ねえ、馬鹿だね」

明るく笑い飛ばしてやるなんて芸当は出来ないけど、今にも決壊しそうなのにまだ耐えているのをあと一押しするくらいなら、俺にも出来る。
 
乱れた髪を直すこともなく顔を上げたところを抱き寄せた。きつくきつく抱きしめて、赤子をあやすように背中を撫でる。

「……たっくん、スーツ汚れちゃうよ?」

「いいよ」

「よ、良くないよ! 駄目だよ、明日もお仕事でしょ?」

「休む」

「だ、駄目!」

「いいの」

……全く、何でこんな変な所で頑固なんだ。


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