短編置場

□願い事ひとつ
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「一緒に天の川見よう!」

 夕方、珍しく先に連絡を寄越してからやって来た彼女は機嫌が良かった。

「浴衣持ってきたの。たっくん、着付け出来る?」

 いや、普通出来ないだろ。
 それでもせがんでくるから、崩れない程度に適当に着付けてやった。終わったと思ったらもう一着出てきて、着ろと言われたから、これは簡単に適当に着付けた。
 そしてベランダへ出る。

「……暑い」

 全く、夜だっていうのにこの湿度の高さは堪える。

「はい、たっくん。団扇!」

「空気が温い中でそれ意味があると思う?」

「無いよりマシだよー。雰囲気出るでしょ?」

「分かったから、静かに。只でさえ曇り気味なんだから、よく見てないと見えないよ。天の川」

 今日は七月七日。七夕だ。
 高いところから見た方が綺麗だからという理由で家に来て、こうして雲が晴れるのを待っている。

「たっくん、素麺は?」

 リクエストその二。
 これも持参品だが、彼女が浴衣ではしゃいでる間に茹でておいた。だけど、何で素麺なんだか。

「天の川って素麺みたいじゃない?」

「……シルクロードって知ってるか?」

「知ってるよ、絹の道だよね。だから、素麺」

 絹の糸、か。まあ、良いけど。

「今食べるの?」

「うん」

「ここで?食べてたら見逃すんじゃない?」

「うーん……。じゃあ後にする」

「食べたいんだろ?持ってくるから」

 部屋に戻ろうとしたら腕を取られた。

「いいよ、後でいい。二人で見なきゃ意味ないから」

「意味?」

 ハッとしたように口元を押さえる仕草。口が滑った時に見られるもの。

「何?意味って」

「え、あ、何でもないよ!」

「目が泳ぎまくってるのに何でもないのか?」

「えと、まだ内緒!」

「……まあ、いいけど」

 これ以上問い詰めても答えは得られないと見て、元の位置に戻る。

 雲は薄いけれど、完全には晴れない。星はちらほら見えなくもないが、明日は雨の予報が出てる。天の川って、晴れてて尚且つ空気が澄んでないと見れないんじゃなかっただろうか。


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