短編置場
□願い事ひとつ
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隣を見れば、何が楽しいのか、笑顔の横顔。
「たっくん」
「何?」
「手、繋いでいい?」
「いつもは勝手に握ってくるだろ?」
「駄目って言われないか賭けてたんですよ」
「何でそんなことするの」
「……とりあえず、繋ご?」
差し出された手を握ってやると、ふにゃっと笑った。
「たっくん、手あったかいね」
「お前が冷たいんだよ」
本当に、氷でも握っていたんじゃないかと思うくらい、彼女の手はいつも冷えている。体を冷やすなと煩く言うよりも手っ取り早い方法が、あるにはある。それで彼女の冷え症の改善は出来ないが。
「……」
少し迷って、繋いだ手を手前に引いた。顎の下に彼女の頭がくるように、手すりとの間にその身を入れて後ろに、こちらの身へ軽く寄りかからせた。
「わ、わわっ。どうしたの?」
「何が」
「珍しい!」
「お前が冷え過ぎだからだろ」
気温はあまり下がらず蒸し暑いのに、預けられた身はこちらよりも体温が低い。手を繋ぎ直して体の前で組む。
「ふふ。嬉しいな。後ろから抱っこ」
笑顔のまま、一人呟くように言うのを聞き逃さなかった。
「もう願い事しなくてもいいかな」
今なら聞けるだろうか。
「ねえ、意味って何?」
「え?」
「さっき言ってただろ。二人で見なきゃ意味が無いとか何とか」
「ああ〜。……言わなきゃ駄目?」
「駄目」
「厳しいなあ」
苦笑して、彼女はゆっくりと話始めた。繋いだ手を揺らすのは無意識の所作。言い訳をする子供みたいだけど言わない。
「今日、あんまりお天気よくないよね」
「ああ」
「天の川って、晴れてて空気がきれいじゃないと綺麗に見えないんだって」
なんだ、知ってたのか。思ったけれど、これも言わない。
「でも」
せっかく聞ける言葉の邪魔をするのは嫌だから。
「それを二人で一緒に見れたら願い事が叶うと思って、そう信じてたの」
ゆらゆら揺らしていた手をぎゅっと握られた。
「でもね、もう大丈夫。星に願う前にたっくんが叶えてくれたから」
願い事って何?とは、聞けなかった。
繋いだ手は解かれて、振り返った顔には満面の笑みがあって。
「ありがとう。大好きだよ、たっくん」
その後思いきり抱きつかれて二人分の体重を支えるのに手一杯な振りをして、また言えないんだ。彼女と同じ思いを持っているのに、いつも言わせてばかりで返してやれない。
「たっくん、あったかいね」
「……だから、お前が冷えてるんだよ」
言えない代わりに腕を回して抱き締めるしか。
「嬉しいー」
それでも、こんな表現しか出来なくても、君が笑うなら、もう少し努力してみるのも悪くないと思う。
*おわり*