novel

□ねじ
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「美しいものが儚いのではなくて、儚いから美しいと思うのよ」

 落ちた椿を拾いながら、彼女は言った。

 身を切るような寒さも、降り積もる雪の静けさも、鮮明に覚えている。けれど、ああ、私は彼女の顔を思い出すことができない。

「おまえは美しくないわ」

 彼女の言葉に対し、私はなんと答えたのだったか。

 −−私も椿のようになりとうございます−−

 確かそんなことを言ったような気がする。

「無理よ、おまえには」

 彼女は小さく嘆息した。私の言葉は、彼女に悲しい顔をさせた。もう少し頭が良ければ、気の利いた台詞で彼女を笑顔にすることができるのかも知れないのにと、いつも思っていた。





「おまえはいいわね。食べなくても死なないし、排泄の必要もないのだもの」

 私の服を着せ替えながら、彼女はよくそう言った。本当に羨んでいるわけではないと知っていたから、私は黙っていた。

「私がいなくても、おまえはちっとも困らないでしょう」

 困ってほしいのですか、と少し意地悪に問うてみた。彼女は首を横に振った。答は初めから分かっていたが、少しだけ甘い期待もしていた。

「あなたがいなければ、私の活動意義が失われてしまいます」

 そう言うと、その日初めて彼女が笑った。とても情熱的だわ、と。

 ねじを巻かなければ私は停止する。困るわけではない。ただ、それを死と呼ぶことに憧れていた。

「そうね、私がいなければ、あなたは死ぬでしょうね」

 意地悪な彼女は「停止」ではなく「死」という言葉を選んだ。私には叶わぬことと知りながら、割れ物のように大切に、両手にすくうようにして、「死」と口にした。

 なんと厳かな響き。

 彼女が「死」と口にするたび、私はうっとりと目を閉じた。
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