novel
□鬼ごっこ
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ホテルについたのは四時過ぎだった。
宴会までは自由時間ということで、浴場はあっという間に混み合った。
七時には全員が会場へ集まり、担任の乾杯で宴会が始まった。
海の幸を贅沢に盛り込んだ会席料理に舌鼓を打ちつつ、それぞれが思い出話に花を咲かせていた。
けれど誰もが、俺の隣に一つだけ空いた席を気にしているようだった。
宴会が盛り上がってきた頃、座敷のふすまが勢いよく開け放たれた。
肩で息をする紺野の姿がそこにあり、一斉に歓声が上がった。
「お待たせ諸君!」
スーツケースを放り投げた紺野は、挨拶もそこそこに辺りを見回し、俺と長谷部を見つけるなりボディアタックをかましてきた。
そして目にも止まらぬ早さでパンツ一丁になると、女子が悲鳴を上げる中、舞台へ駆け上がってカラオケに飛び入り参加した。
「相変わらずだな」
俺と長谷部はよろめきながら起き上がり、顔を見合せて笑った。
「素面であのテンションは無理だわ、俺」
「長谷部じゃなくても大抵の奴は無理じゃないか?」
「おまえは酒入っても無理だろ」
「無理だな」
いつだったか、クラスの女子が「紺野って黙ってればいい男なのにね」と話すのを耳にしたことがある。
友人をけなされて怒るどころか、むしろ言い得て妙だと感心した覚えがある。
男の俺から見ても、紺野は格好いい。
背が高く、それでいて中性的な顔立ちはどことなく気品がある。
その紺野は今、ケツで割り箸を折ろうと顔を真っ赤にしていた。
弾け過ぎたその性格ゆえか、人気者ではあるものの、女っ気はまるでない。
「あんなふざけた奴がずっとおまえみたいなのとつるんでたっていうんだから、世の中不思議なもんだよな」
今まさに俺が思っていたことを、長谷部がぽろりと代弁した。
「いや、あれか。人は自分にないものを求めるとかいうやつ」
「俺は紺野みたいにはなりたくない」
「俺もごめんだわ」
酒瓶をあおりながら、長谷部が笑った。
舞台では紺野が下顎を出して、「便器があればウンコができる!」と拳を突き上げているところだった。