結ぶ黒揚羽

□友達ンコ〜
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 太陽も昇った卯の刻入り。取材班は高層マンションのドアをノックした。
「お通ちゃーん。入りますよー?」
 すると、中から聞こえてきたのは彼女の母親でもあるマネージャーの声。
「お通ー?取材来たわ。入れるわよ」
「えっ嘘々!?もう来ちゃった?あー髪まとまんないーお母さんやってぇ」
「嫌よ。それくらい自分でしなさい。そして、アンタの爆発頭でも撮ってもらうことね」
「えぇェェ!?ちょ、待って待っ……」
 ガチャガチャと、鍵を開ける音がして、ドアが開いてゆく。

 取材班はカメラや、マイクを手にして、ゴクリと息を飲んだ。
 何しろ、人気アイドル寺門通のプライベートを取材することは、初めての事なのだから。上が何度も事務所に掛け合ってくれたおかげで、ようやっと取材の許可を貰えたのだ。このチャンスを逃すまいと、取材班の面々は緊張の面持ちで、開いたドアに注目した。
 取材班の姿を見るなり、濃い目の口紅をつけて、二コリと笑って取材班を迎え入れたのは寺門通の母親。お通ちゃんのマネージャーでもある。
「どうぞ、お上がりになって。ごめんなさい、うちの娘まぁだ準備出来てないの……着替え持った?」母親はお通ちゃんに声をかけている。
 カメラを廊下に向けると、廊下の左右にある部屋とを行ったり来たりしているお通ちゃん。
「ちょ、まっき、がえっ!!」
「お通ちゃーん、カメラ回ってますんでー」
 カメラマンが声をかけても、通は返事もせずに部屋へと引っ込んだ。

『やっぱり、人気アイドルお通ちゃんの朝は宇宙戦争レベルですねー』
 リポーターは自分の襟元のマイク位置を調整しながら、彼女の様子を伺っている。
 そして、お通ちゃんが入っていった部屋に取材班は進入した。
 そこは、洗面所であった。鏡の前で自分の髪と格闘しているお通ちゃんの姿が。
「えぇい!軟弱なゴムめ!もうっこっちのリボンで誤魔化し……あ、ちょ撮らないでココ汚いからッ!?」
『お通ちゃんも普通の女の子、プライベートではお通語も取れているようです』と、リポーター。 
 カメラが鏡の周りを撮影する。そこにはお通ちゃんが普段使っているであろう化粧品の数々が洗面台の周りに、ハプラシやコップと一緒に散っている。
 玄関先から母親が声をかける。
「取材の方々も靴履いてくださらない?お通の準備出来次第、そっこーで出ますので」
「あ、はぁい」と、リポーター。

「よぉし!」
 突然、お通ちゃんが声を荒げた。
「寺門通、いっきまぁスペシウム光線!!」


「あの、お通ちゃんさっきの掛けの声は?」
 リポーターや取材班はお通ちゃんと同じように二段抜かしで駐車場への階段を駆け下りる。
「私がっ」
 一階の駐車場へと出る。するともう入り口に車を回していたらしく、目の前には送迎車のワゴンが。
「寺門通になるためのッ」
 お通ちゃんは車のドアを開けた。中に滑り込むようにして乗る彼女。取材班のうちカメラマンとリポーターだけが車に同行する。残りの取材班は別の車で彼女等の車を追う事になる。
「気合いデスメタル!!」


「運転手さんに買ってきてもらったから朝ご飯。もう食べちゃって」
 そう言って、マネージャーはコンビニの袋をお通ちゃんに差し出す。
「え、てことは時間ないのしし?じゃあ、着替えもここでしちゃってもいいかなご?」
「あぁいいんじゃない」とマネージャー。
 お通ちゃんは、コンビニおにぎりの袋を破ると、零さないように食べている。

 胃に朝ご飯をそこそこに詰め込んだ後、お通ちゃんはカメラ目線でウィンクを決めた。
「テレビ初公かー井村屋の肉まん。寺門通のお着替えシーンだぞうもつの煮込み」
「まだ、ご飯足りないんですねお通ちゃん」とリポーターは笑った。
「うんこ」
「……でも厠行きたいんですね」
「……」
 お通ちゃんは答えない。
「運転手さん?もっと急いで頂戴」
 慣れているマネージャーは、運転手にスピードを上げるよう言っている。

 それでもお通ちゃんは便意と戦いながら、着替える。彼女の着替えも初公開だ。
 本日のスケジュールはまず朝のニュース番組への出演がある。その着替える、といっても番組のロゴ入りパーカーへと着替えただけではあるが。背中には大きく番組キャラクターが描かれている。
「このキャラ可愛いですよね助、色も黄色で可愛いしかわ五右衛門」
 お通ちゃんはカメラにキャラクターが見えるように、背を向ける。この番組は同局なのでキャラクターを映しても問題はない。
「ほら、通後ろばっか見てないでテレビ局についたわよ」
「あ、はぁいテンション!」
 カメラを前方に向けると、局の駐車場に入るところだった。
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