結ぶ黒揚羽

□同期の桜
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「すいませんねぇ。モブフィーバーかかっているところ悪いんだけど、今からレギュラーメンバーと交代。直ちに散って下さーい」
 外に居たのは、巨大な近藤の面したゴリラが居る。額には負けゴリラと書かれて、その負けゴリラを従わせているのは、バズーカーを抱えた沖田だった。
 店内にまだ残っている負け犬。沖田の従えている負けゴリラがウホウホと大きくドラミングをして口を開けた。その瞬間、負け犬達はその巨大負けゴリラの口の中に吸い込まれていってしまった。

「あのさぁ、お楽しみだったところ悪いけどサイレンの音聞こえなかった?近くで火事あってね、ちょいとヤバイんでぃ。とっとと逃げないと――……死ぬよ?あんたら『モブ』さん達」
 と、沖田はバズーカーをこちらに構え、放った。

ズガァァァ!!!
「ちょっと沖田さん何やってんですか!!」
「ん?火消しの仕事もしてみよっかな〜なんて」
 爆風で飛ばされた眼鏡(新八)と新八かけてたモブが吼えた。一緒にいた友達やタカチンはばい菌マンのようにバイバイキーンしたり、逃げてしまって姿が見えなくなってしまっている。おまけに店は、建物の形を成さなくなってしまっていた。
 沖田の右手にはバズーカー。左手でロールケーキを持ち、貪っている。そして、歩くたびに隊服の色んな所から銀玉が零れ落ちていた。
 周りに注意をやれば、なるほど……確かにサイレンの音が辺り一帯に響いている。

 出た……。アフター5どころか、ずっと仕事していない人!!
 誰よりも巨大な負けゴリラを持つ国家公務員!!

『デリヘルデリヘルデリヘルル〜
 デリヘルデリヘルルルル〜
 
 一日中仕事をサボり(基本、仕事しない)
 やっぱり、ずっと寝てるだけ〜

 国民よ。これが、警官という税金ドロボーです〜
 
 デリヘルデリヘルデリヘルル〜
 デリヘルデリヘルルルル〜』


 沖田は、新八の視線に気づくと言った。
「アンタも逃げた方がいいですぜ。新八くん」
 と、ロールケーキにまみれた手で持っているのは地面に落っこちていた眼鏡(新八)だった。
(って、僕もモブかァァァ!!!)

 
**

 負けゴリラは、沖田とモブ(新八の器)を掴んで、パトカーに投げ入れる。

 沖田は、慣れた動作でパトカーを発進させた。すぐさま、サイレンのスイッチを入れ、道行く人々に避難を急ぐよう促す。
「はいはーい、テメー等ちんたら避難しってっと、火事に巻き込まれて死んじゃうよ〜?」
 街道を走るパトカーは、荷物を抱えた避難者達の後ろを追うように蛇行運転を左右に繰り返して、彼等を駆けさせる。
「げぇぇ!!?」
「ぎゃァァ!!!」
 新八の耳に、サイレンの音よりも悲鳴が刺さってゆく。
「何やってんですか!!?沖田さん、火事よりもアンタが騒ぎ大きくしてんじゃないですか!?」
 ツッコミのあまりに、身体を運転席と助手席の間から乗りだして言う。
 その途端、沖田は一気にアクセルを踏んで加速した。
「うわっ!!」
「……ちょいと、ヤバイんで……新撰組(こっち)もスクランブルエッグかかってるんでさぁ。俺、今日非番だったのに、仕事とか面倒くせぇ」
「スクランブルですよね」
 お前いつも非番みたいなもんだろうが。と、そちらもツッコミたかったが、新八はその言葉は飲み込んだ。
 バックミラーに映っている沖田の目は、口とは違って働き者だったからだ。半分、沖田の仕業ではあるが町民達も必死に走っている背中と、ミラーに映っている東へと落ちて、猛威を振るっている夕日。
 鏡と人を交互に凝視する視線は、車内という安全地帯にいる新八を通過していく。


 こちらも負け犬の染み付いている彼。くしゃみの音が部屋に響いて銀髪の頭が上下した。
 そして、またページの捲れる音。
 最初に異変に気づいたのは神楽だった。
「銀ちゃん、屁こかないでよー」
「こいてねーよ」
「こーいーたー。へーこきましたねーアナター」
 下手なリズムより下品な歌を披露する神楽。
「こいてねぇつってんだろ!」
 しつこい神楽に嫌気がさして、頭にきて叫んだ瞬間、勢いよく障子戸が開き依頼人でもあるこの長屋の大家さんが入ってきた。
「アンタ達、仕事なんかよりとっとと逃げな!!火事がすぐ近くまできてるんだよ!」
 いや、俺達仕事してません。基本、漫画読んでただけです。
「さっさと逃げるんだよ!?」
 大家は、二人を外へと引っ張りだすと、バァさんとは思えない足の速さで、避難中の人々の群れをこいで行った。
「神楽、あの足がバーゲンとぺ・ヨソジュン様の追いかけ時に使われる足だ。テストに出るからよーく覚えとけ」
「あいあいさー」
 神楽は銀時に了解を示す。

キキーッ!!

 ちんたらしていた銀時達の目の前に、急ブレーキ音と共に一台のパトカーが止まった。
「テメェ等何やってんだ!?早く逃げろ愚民共!!」
 パトカーから顔を覘かせたのは、四六時中、空気を吸わずにタバコを吸っている男、土方。後部座席には山崎も乗っているが、こいつはいつも何か意味不明な事をしている。新八と同じ地味・ツッコミキャラが通っているが、こいつはモブかと問われればそーでもない。
 銀時と神楽は揃って、そのダメ警官を見つめる。

「たっく……避難誘導も面倒だぜ」
 信号待ちの間に、ライターでタバコに火を付け、信号が青になった瞬間、アクセルとタバコをふかす土方。
「ちょっと副長もっと飛ばしてくださいよ。スピードさっきよりも出てませんよ?」
「あん?つっても、さっきと同じくらいアクセル踏んでるぞ?」
 土方は速度計のメーターを見た。……山崎が指摘してきた通り、速度が出ていない。
「マジかよ。こんの忙しいのに……」
 ぼやいた土方の吸う煙草は赤く燃え灰となり、さらに短くなる。口の方も忙しい。
「煙草吸ってる奴に言われたくないよなー」
「そうアル!!腐れ警官!!」
 ……アレ?

 突然、聞こえてきた声に土方と山崎は固まる。
 この車内には……腐れ警官の二人しかいない。
 
 あれ?

 しかも覚えのある声が聞こえる。


「もっとスピード出せないの大串く〜ん?火事に巻き込まれちゃうよ〜」
「……」
 土方が顔をしかめた瞬間、煙草の灰がパサリと落ちた。
「あ゛っぶわっ!!くっそっ。山崎、頼む」
「あいよ」
 灰が膝に落ちて、慌てた土方にはかまいもしないで山崎は刀を手にした。

「「ギャァァァ!!」」
 刃を天井に差した瞬間、外から聞こえてくる悲鳴が。
ゴン!!ゴロゴロ……

「ふん。落ちたな……」
 笑う土方。

 国民よ。これが警察の実態です〜

「国民のみなさ〜ん!!これを読んでる読者のみなさ〜ん!!こんなんが国家公務員の姿で〜す!!」
「!!?」
 土方はその声に驚いてバックミラーを見、山崎は後ろへと振り返った。
 見ると、神楽がパトカーの後ろにつかまりながら駆け、その肩に掴まっている銀時。

(こ、こんの愚民共め……)
 鼻に皺を寄せて、煙草を噛み千切らんばかりに歯軋りを発てる。
「おい、山崎。隣に来い」
「へっ?」
「いいから。助手席」
「あ〜……はい」
 山崎は土方に言われるままに、後部座席から間を乗り越えて移動する。
 山崎が座ったと同時に、土方は「わるい。ちょっと斬ってくる」とハンドルから両手を離し、窓を開けた。
「へぇぇ!!?ちょ、副長!?」
 代わりにハンドルを握る羽目になる山崎。不安定な体勢からの運転のせいで幾分、蛇行する車。
 窓のへりに足をかけて、外へと身を乗り出す土方。
「テメェ銀時!ふざけた事ぬかしてんじゃねぇぞ!!」
「んだと?腐れ警官だけ悠々自適に逃げてる方がおかしいだろ!!俺等だって仕事で疲れてんだよ!!」
 ↑今日ほとんど仕事してないけどね。
「知るか!俺等は日夜、市民のために……」
 と、今日の日を思い起こす土方。

『午前中は山崎を殴り〜
 午後は、市中見廻りと称して、沖田がスロット打っているパチ屋の隣に隣接している定食屋で、マヨ丼をかっくらう〜
 夕方にはゴリラ(本物の近藤)を志村さん家から連れて帰って……』


「山崎……俺等頑張ってるはず……だよな?」
「副長。目からマヨ流しても、説得力ありませんよ」
 土方の問いに、山崎は適当な返事を返した。
「ぶわははは!!!ダサけーかん!!負け犬が染み付いているぜ!!」
 銀時達の背後に流れてゆく光景が。マヨ目に沁みる。
 夜の帳に抜けた紅の色が滲んでいる。
(俺等の仕事は市民を逃がす事しか……)
 しかし、消火、鎮火作業は火消しの仕事だ。

 それに俺等は警察以上に……。
 土方が視線を落としたその時。内線から聞きなれたおっさんの声が聞こえてきた。






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