歌劇の王子様

□BN 1
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side B

冬の夜空は地上からの光を反射してドンヨリと鈍くわだかまり、寒さもあいまって俺の気分を沈ませた。
けれども貴方ははしゃいだ声で俺の意識を引き付ける。
「ばーちょん、見て見て!、雪だ!。」
見上げれば暗い夜空から頼りなく白い欠片が無数に落ちてくる。
「……ほんとだ。」
「キレーだよな。」
寒いのは苦手だけど、と言って笑う無邪気な貴方。
「マサも綺麗だよ。」
「えー、なんだよそれー。」
「イヤ?。」
「イヤって言うか、格好良いがいいなぁ。」
繁華街を並んで歩きながら他愛無い言葉遊びを楽しむ会話。
「でも、ばーちょんに言われるとドキッとする。オレが女の子なら惚れちゃうね。」
「惚れてよ、遠慮しないで。」
「えぇー?、ばーちょん彼女いるじゃん。」
「いないよ。別れたもん。」
「別れた!?、何で?、あんなにラブラブだったじゃん。」
大きな目を更に大きくして驚く貴方。
「仕事、忙しいから?。」
心配そうに見上げてくるのは俺の事を親友だと思ってくれてる証拠。
「ちがうよ、……他に好きな人、できたから。ちゃんと話して納得してもらって別れたんだ。」
何事にも素直で純粋な貴方。
「……そっか。」
優しい貴方はもうそれ以上、俺を追求したりしない。

降り続く雪の中をしばらく黙ってならんで歩いた。

「ねぇ、マサ……。」
駅に着いて別々のホームに向かわなくてはならないのに、俺は貴方に別れを告げず軽く袖を引くようにして向かい合った。
「俺に、惚れてよ。」
突然の行動にただ俺のことを見上げていた貴方の瞳が驚いたように揺れる。
「ばーちょん、……それって…?」
真剣な俺の表情を見つめ、不思議そうに呟いた貴方の唇が柔らかそうで、無意識に口付けた。
「っ!?。」
「俺、マサが好きだよ。」
帰宅を急ぐ人達の中で触れるだけの短いキス。
貴方は言葉を失い真っ赤になって立ち尽くす。

卑怯な俺を許して?。
邪な思いを許して?。
だって、本当に貴方が好きなんだ。

「返事は地方公演終わってからでいいよ。」
固まってしまった貴方に少し罪悪感。俺はうまく笑えてる?。

そっと袖を離して、
「それじゃ、またね。」
と踵を返す。

貴方の事が好きだから、困らせたくなんかなかったけど、あんまり貴方が綺麗だからつい我慢できなくて。言ってしまった。
やってしまった。

滑り込んできた電車に乗り込み、ドアが閉まる音を聞きながら降り続く雪をじっと眺めた。

疼く少しの罪悪感。
でも俺は早く明日になればいいと祈るようにそう思った。
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