小説部屋

□雷鳴 28
1ページ/2ページ



 遠い天から響く雷鳴

 遠い貴方を照らす雷光






夏休みに入って間もないある日の出来事。

「この漢字、何て読むんじゃ?。」
苦手な宿題を手伝ってもらうため、
「『しさ』です。」
仁王雅治は柳生比呂士を自宅に招いていた。
「意味は?」
「ご自分でどうぞ。」
「意地悪じゃのぅ。」
「こういうものは自力で調べてこそ、身につくものです。さぁ、どうぞ。」
差し出された辞書。その厚みは柳生を包む他人をうけつけない雰囲気とよく似ている、と仁王は思った。
「意地悪……。」
ちょっと拗ねたように呟いて、辞書を受け取る。
ペラペラとかったるそうにページをめくりながら、仁王は隣で黙々と宿題を進める柳生を盗み見た。
綺麗に撫で付けられた色素の薄い髪。整った目鼻立ちだが、無機質な眼鏡のレンズに邪魔されてよく見えない、と小さくため息を吐く。
「のぅ、柳生。オマエさんは何でコンタクトにせんのじゃ?。」
180度、方向を変えた話題に
「え?。」
と驚き、柳生はほうけた顔で仁王を見つめた。
「綺麗な顔しちょるんじゃけぇ、眼鏡で隠すんはもったいないぜよ。」
仁王は驚く柳生にもお構いなしで、一人納得したように頷きながら喋っている。
「別に眼鏡でも生活に支障はありませんから。」
「ほぅじゃのぅて…………。」
「?」
仁王の言葉に首を傾げる柳生はじっと相手の言葉を待つ。仁王は邪気のない柳生の視線に苦笑する。

刹那、白い光が室内を一閃し窓を揺らす轟音が身体ごと鼓膜を震わせた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ