小説部屋

□雨
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朝の天気予報が言った通り、強い雨が引っきりなしに教室の窓を叩いていた。
「もう、お帰りですか?」
背後からかけられた声に、仁王はビクリと肩を揺らして振り返った。
「柳生…。」
下駄箱の前に相棒の姿を認めて引きつった笑顔を浮かべる仁王。
「部活はどうなさるんです?。」
銀縁の眼鏡を光らせながら柳生は恐ろしく静かな口調。仁王は慌てて靴を履き込むと、
「あぁ、いやその、ちこっと用事があるんじゃ。」
と言って踵をかえした。
が、
「仁王くん。」
担いでいたテニスバッグをつかまれる。
「見逃してくれ柳生、どうせ今日は体育館の隅で基礎トレじゃろぅ?。」
「仁王くん。」
「後生じゃ、柳生〜。」
バッグごしに情けない顔で訴える仁王は、当然用事などあるはずもなく。室内トレーニングなのをいいことにサボろうとしていたのだ。
「頼むぜよ〜。」
「仁王くん。」     甘えるようにヘラリと笑った相手に、柳生は軽くため息をついた。甘やかしている自覚は十分にあるのだが、どうにも仁王の笑顔に逆らえない自分がいた。
「分かりました。」
諦めたように告げられた言葉。
「恩にきるぜよ。」
仁王はほっと力をぬく。
しかし、柳生は仁王を放さなかった。
「や、柳生?」
「傘をお持ちでないんでしょう?。」
「は?!。」
突然の問いに仁王は間の抜けた声を上げてしまった。
「今朝、髪も制服も濡れていらしたでしょう?。」
柳生の言葉にばつの悪そうな笑みを浮かべて仁王はくしゃくしゃと頭を掻く。
「ははっ、格好悪いところを見られたもんじゃ。」
柳生が仁王を引き止めたのは、今だ降り止まぬ激しい雨のせいだった。
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