瑠璃の祭壇

□夏祭り 忍×菊 編
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菊丸が嬉しそうに駆け寄ったのは浅い水槽に無数の朱色が漂っている[金魚すくい]の屋台だった。    「ね、コレやろぅ?!」
満面の笑顔で振り返られ、忍足は言葉につまる。
「お祭りの時、いっつも姉ちゃん達とやっててさー。でもちっともすくえなくって…………。」       さっそく紙のポイを片手に水槽を覗き込む菊丸。
「え〜っと、………コイツにきめた!……まてっ!。」
「……………。」
「お、っと!………すばしっこいな………にゃぁ!、破れた!」
「…………クス。」
「もぅ!、笑わないでよっ!。難しいんだからっ!。」
「あぁ、ごめんな。」    幼い子供のように必死に金魚を追い掛ける菊丸の姿に、笑いを堪えきれなかった忍足。
「貸してみぃ。」    見兼ねて菊丸の手から新しいポイを受け取ると水槽の前にしゃがみ、
「………ほら、とれたで。」
ものの数分で数匹の金魚をお椀に入れてさしだす。
「すごーぃ!、忍足すごいにゃ!。」
お椀と忍足をキラキラした尊敬の眼差しで見つめ、菊丸は屋台のおじさんに
「袋、二個に分けてください。」
と金魚を差し出した。  「ほい、コレ。」
「え?。」
赤い金魚の入った袋を忍足に差し出す菊丸。
「オレだと思って可愛がってにゃ?。」
満面の笑みを浮かべ相手が受け取ると信じて疑わない様子に、忍足はつい手を差し出してビニール袋を受け取った。
「こっちの黒いのは忍足ね、大事にするからにゃ!。」
「………。」
楽しそうに自分の袋を掲げてみせ、そんじゃあと言うと思いのほかあっさりきびすを返し祭りの光と人込みの中へ消えていった。
「……………。」
掛ける言葉もなく茫然と見送った忍足は手の中に残された袋をちらりと見やり盛大なため息をつく。
「こんなん持って帰れるかいな…。」
子供じゃあるまいし、と呟くが捨てる気にも人にやる気にも成れず仕方なく細いビニール紐を握ったまま、気の抜けた身体を引きずるようにして祭りの会場をあとにした。



END
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