頂き物

□ 羽子板は黒の予感・・・
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注意:パラレルネタです。

少年は空を見上げていた。
何をするとでもなく、ただ空を見ていた。
少年の傍には羽子板と羽が置いてあったが、近くには少年以外誰もいなかった。
羽子板の相手になるような存在は誰も。

「はぁ・・・・・・」

気が抜けるような溜息。
退屈していますと全身で表現するように、少年は空を見たままダラリと寝転がった。
今は冬休みの真っ只中。
それもお正月。
お年玉に長期休み。
子供にとっては嬉しい時期なのに、この子供にとってはそうでもなかった。
ここは山奥。
少年の両親は山で貸し別荘の管理人をやっていた。
木々に囲まれた場所。
人気など無い。
学校も山を降りて通っている。
ご近所は山を降りなければいない。
つまり、近所の友人と言う存在が少年にはいなかった。
この時期、別荘を借りて泊まりに来るお客様はいる。
子供連れのお客様でもいれば、一緒に遊べるのだろうが、生憎と今回は大人ばかり。
その為、少年は退屈しきっていたのだった。

「山下りて遊びに行くにも、手伝いがあるから無理だしなぁ」

手伝いの合間の休憩時間。
ささやかなそのひと時だけが、この少年の遊べる時間。
山を降りて友達に会いに行くには時間が足りない。
結局、こうして森の中をブラブラして休憩時間を過ごすのが、ここ数日の日課になっていた。
そしてその日課はもう一つあった。
森の中で黒い存在を見かける事。
綺麗な銀の長い髪を揺らして、木に寄りかかるように立つそれ。
その髪ゆえに初めは女性かとも思ったが、眉間の皺、鋭い目、広い肩、それらから直ぐに男性だと思い直した。
ここ最近、森の中で見かけるその人は、何をするでもなくただそこにいた。
変だと思いつつも、少年は何もしなかった。
声をかける事も、誰かにその人の事を話す事も。
だが、今日は違った。
退屈のあまりと言えば、そうなのだろう。
少年は起き上がると、口を開いた。

「なぁ・・・そこで何やってんの?」

その男はいつも同じ場所に立っているわけではなかった。
今日はたまたま少年が寝転がっていた場所の近くに立っていた。

「立ってるだけで退屈じゃねぇ?」

最初、聞こえてないのかと思ったが、その表情がまるで、有り得ない事でもあったかのようなものになっている事に気づく。
変な事でも言ったかと少年は慌てだすが、それよりも先にその男が言葉を寄越した。

「にぃちゃん・・・俺が見えるのか?」
「へ?」

何を当たり前の事を・・・と少年は驚く。
見えるのは当たり前。
そこにいるのだから。
だが、相手にとってはそうでもなかった。

「にぃちゃん・・・人間・・・・だよな?」
「動物にでも見えるのか?」
「いや・・・そうじゃねぇが・・・」

様子が可笑しい。
少年は首を傾げる。
相手は次の言葉が出ない。

「まぁ良いや。なぁなぁ暇ならさ、羽子板しねぇ?」

大掃除の際に、たまたま見つけた羽子板。
する相手もいないのに、つい持ち出してしまった。
ちょうど良いやと、相手をしろと誘う。
すっと手を差し出した時、男は戸惑った。
そんな様子などに構わず、少年は手を引いた。

「なっ・・・何で・・・」

何で触れられる?と、その男は口の中で呟く。
自分の姿を見れるはずも無ければ、触れられるはずも無い。
そのはずなのに、この少年は・・・
驚きつつも、少年の手を振りほどけないのはささやかな興味。
それは「何故?」の答え。


「はい。これ」

そう言って羽子板を渡す。
そして始まる可笑しな風景。
幼い無邪気な少年と、黒尽くめの長身の男。
不釣合いな上、森の中で羽子板で遊ぶ姿は、それを目にした者を引かせる事間違いなし。
その片隅には罰ゲーム定番の墨もちゃんと用意されていた。
その数分後には、男は顔までも黒尽くめになっていた。
そしてその横で腹を抱えて爆笑する少年が。
更にその後、仕返しとばかりに少年は顔を真っ黒にお塗りつぶされた。
あっという間に、休憩時間が過ぎてしまった。




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