頂き物

□きみのためにうたおう
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どことなく体の調子が悪いような気はしていたけれど、気のせいだと思うことにして今日の大半を乗りきる。
だってほら、夏風邪はなんとかが引くって言うし。出来ればそうは言われたくなかったから無視してたけど、結局、その「なんとか」の仲間入りをすることに、なった。



きみのためにうたおう


ふらふらと覚束ない足取りで民宿の襖を開けた途端に、三志郎はばたりと音をたてて畳の上に突っ伏した。
普段とは様子が違うことを不審に思ったために、珍しく全身を露にして子どもの背後にいた男は、マジかよ、と小さな背中に溜息を送った。


一応人気がないことを確認して、すぅと開きっぱなしの戸を閉める。完全に脱力しきっている三志郎の腰のあたりに片手を差し入れると、軽々と脇に抱えて小さな部屋の中心まで運んでやった。

「・・・・・ったく」

どさりと荷物を降ろすと、不壊は小さく呟いた。
薄暗い室内でもわかる程度には、子どもの頬は赤く色付いている。先程触れた時の体温の高さからいっても、これは確実に熱があるだろうと、眉を寄せる三志郎を見下ろした。
ちらり、視線を逸らして部屋の隅へ送る。あの襖の向こうにある布を自分がここまで持ち出して、さらには場を整えてやらねばならないのか。

(・・・・・面倒くせェ・・・)

思いながらも男は滑るように動いて、子どものための用意を手早く済ませた。

敷いた布団の上に三志郎を寝かせ直す。動かしたことで気がついたのか、うっすらと大きな目を開けた情けない顔が不壊を見つめた。

「・・・黙って寝とけ」
「・・ありがと」

ごめん、と今にも言いそうだった子どものその顔に、先に切り出すことで言わなくてもいいと暗に告げる。その雰囲気をなんとなく感じとったのか、三志郎は水分を含んだ瞳で嬉しそうに笑った。
熱っぽく話す声やら、艶っぽく光る瞳やら。
そんなものを見たり聞いたりしていると、なんとなく今とは全く違う状況を思い浮かべてしまったりする。不誠実にも病人を目の前に不壊がそんなことを考えていると、三志郎が短く唸って顔を顰めた。熱がある他には特に問題はないようだが、どうにもそれが苦しいようだ。だからって何かをしてやれる訳じゃないと、男は薄く口を開いた。

「・・・人間同士なら、伝染せば治るとか言うらしいけどな」

ぼそり、呟いた不壊を三志郎は重い瞼を持ち上げて見つめる。視界は少し不明瞭だった。

「妖だからな、俺には伝染んねェ。だから何もしてやれねェよ」

霞んでうまく見えない視界のせいかどうかは、わからないけれど。
得意気に皮肉っぽく言ったあなたが、ほんの一瞬だけ、なんだかさみしそうな顔をしたような気がしたから、

「いいよ、それで。フエにうつったら俺が嫌だし」

そんな顔させないようにと、今できる精一杯で子どもは笑って見せた。



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