頂き物

□まっすぐすとれーと
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【まっすぐすとれーと】


ありえねェ。
そんな都合のいいことは、ありえねェ。

白いシーツにくるまる子どもを見下ろして、静かに呼吸を一つ。
薄ぼんやりとした月に照らされる畳の上で、男はくるりと子どもに背を向けた。
「どうしたんだよ?」
フエ、と三志郎は踵を返した男に呼びかける。
せっかく一緒に寝ようと誘ったのに。
果たしてそれが男に背を向けさせた原因だとは思いもしない子どもは、くるまったタオルケットの中で首を傾げる。遥か彼方にある不壊の後頭部を見つめても、相手はぴくりとも動く気配を見せなかった。
「フエー?」
早くこいよ、と甘い誘いをかける三志郎に、いやそんなわけはないんだ、と男は冷静になろうと努める。こんな何も知らないような子どもが、シーツへと誘い込むなんて、そんなわけはないのだ。
ただ単に、ささやかなもの寂しさか何かのために、そう言っているにすぎないのだ。
と、思いながらも、実のところ妙な期待をかけてしまっている自分が情けない。
だってもしも、もしもそういう意味だったら、どうするのだ。
そんなおいしい状況は二度とないかもしれないと思うと、そこはやっぱり例え思い違いであったとしても、勢いに任せてなだれこんでもいいのでは、なんて。

いやいや、駄目だろうそれは。

なけなしの理性はまだ何とかご健在のようで、相手は子どもだと不壊は内心で頭を左右に振る。そんな自分を傍観すればかなり情けないことになっているという事を、今の彼に考える余裕はなかった。
「何してんだよ?」
諸々の事情を光の速さで考えること数秒。それでも立ち尽くしたまま何も応えない相手に焦れて、三志郎はまた不壊に呼びかける。
同時にくいと引かれたコートの裾に反応して、男は思わず振り返った。
シーツの上にぺたりと座り込んだ三志郎が、細い腕を伸ばして裾を掴んでいる。羽織るように肩にかけたタオルケットからは、腕同様に細い体が覗く。可愛らしく傾いた首と上目遣いとに追い討ちをかけられつつも、何とか細い糸を保つ。伸びすぎて細長くなった神経の糸は、正直かなり限界だ。
「なぁ、早くしよーぜ」
って、ナニを。
少しだけ赤らんだ幼い頬。伏せ気味の長い睫が落とす影。羞恥を隠すようなその素振りに、はっきり言って両手を挙げるくらいしか対処法は浮かばない。
ナニをって、ナニしかないのか。そうなのか。
わかりやすく動揺しながらも、プライドとしてそれを表に出すことだけは制御する。崩壊間近の神経は、男に無言で膝をつかせた。
ひょろ長い影が頭上から降ってきたことに、三志郎がぱっと顔を上げる。先ほどよりも幾分近くなった血色の悪い顔を見ると、自然と頬が緩んで嬉しそうに笑った。



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