逆門2

□一ヶ月企画。
5ページ/6ページ


「さて、三志郎君」
何処に食べに行きましょうか?

ロッカールームで荷物を纏めながら、黒は三志郎に声をかける。
その言葉に、三志郎は思案するかのように腕を組んで呻っていた。

Act.4 昼休み。

二人がそんな会話をしている頃。
一人の男が受付に顔を出した。

「あの…すみません」
「こんにちは、どのようなご用件でしょうか?」

受付で声を掛けられた清は、ふわりと柔らかい笑みを以って男に問いかける。
その問いに、男は「はい」と短く答えて、言葉を繋げた。

「営業部の多門さんをお願いします」
「申し訳ありません、営業部に多聞は二人居りますが、どちらをお呼びすればよいでしょうか?」

その言葉に、男は「あぁ…そうか」と呟いて、記憶を引き出す。確か、自分の用事があるほうは…

「黒さんのほうで」
「畏まりました。少々お待ちください」

清はそう言うと、営業部の内線へと電話をつなげる。
しかし、すでにロッカールームからも出てしまっている黒に、電話が繋がることはない。
二、三言電話口で言葉を交わすと、彼女は受話器を置き、申し訳無さそうな顔をした。

「申し訳ありません、生憎多聞は昼休みを取っていまして…」
「そうですか…」

どうしたものか、と受け付け前で考えあぐねている男。
それに、丁度会社を出ようとしていた三志郎が気付いた。


「あれ?黒、アレ…不壊じゃねぇ?」
「そのようですね…すみませんが三志郎君、ちょっとここで待っていてください」
「おう!」

元気良く返事を返した三志郎に柔らかく笑みながら、黒は受付のほうへ足を進めた。

(…三志郎君が気付いていないようでしたら無視するつもりでしたが…仕方ありませんね)

心中で大きく溜め息を付きながら。

「隠岐さん」
「あ、黒さん!お客さんですよ」

黒は清に声をかける。
その声に、彼女は明るい声で来客を告げた。
それに頷いて、今度は不壊へと言葉を掛ける。

「で、どんな用ですか?不壊」
「あぁ…わりぃな、昼休み中に」
「別に構いませんよ。…ですが三志郎君を待たせているので簡潔にお願いします」

「出来れば帰ってください?」と言外に告げられて、思わず不壊は眉を顰める。(ひそめる)
その言葉に不快感を感じたからではない。いや、全く感じなかったわけではないが、自分がその立場であるなら、黒の気持ちが良く分かるので、その辺りは享受していた。
不壊が眉を顰めた理由。それは。

「それがな…前回の企画書類に不備があってな、訂正もかねて説明してぇからかなり時間がかかりそうなんだ」

その言葉に、黒は大きく溜め息を付いた。

「ハァ…分かりました…不壊、食事は食べてきましたか?」
「いや……まだだが…」

それがどうかしたか?と、首を傾げてくる不壊に、「非常に不本意なのですが」と予め告げて、黒は言う。

「三志郎君と食事をしながらでもよければ…話を聞きましょう」
「っ!…あぁ、構わないぜ」

その言葉に、若干不壊の頬が緩んだことを、黒は見逃さなかった。

(…とりあえず、三志郎君に手を出せないように見張ってましょうか…)

自分の奥さんはとことん人を虜にするのが上手だと、黒は本日何度目か分からない溜め息を付く。
そうして、三志郎に声をかけようと振り向く、が。

「三志郎君?」

そこに、三志郎の姿は見えなかった。

一体何処へ行ってしまったのかと黒が首を捻っていると、今までやり取りを見ているだけだった清が口を挟む。

「あの、三志郎君ならさっき、亜紀さんに呼ばれてましたよ?」

その言葉に、二人は固まった。

(俺のささやかな幸せが……!!!)
(日野さん……あれ程社内ではやめてくださいと言っているのに…!)

もっとも、その心中はかなりの違いがあったのだけど。




コツ…コツ…

ヒールのような足音が聞こえてきた。
歩き馴れていないかの様なソレに、聞き覚えがある黒がそちらを見れば、そこには。

「三志郎君!」
「兄ちゃ…ん?」

ふわりとした可愛らしい服に身を包み、ヒールを履いた三志郎が、はにかみながら立っていた。

「えと…ごめん、黒」
何か、怒ってる…?

おずおず、と云った様に口を開いた三志郎に、黒はすぐさま首を振る。

「いいえ、怒ってはいませんよ?とても似合っていますが…日野さん?」

隣で惚けたように三志郎を凝視している不壊に内心で舌打ちをしながら、三志郎の横に立っていた亜紀の名を呼んだ。
一体、どうしてこんな事をしたのかと言わんばかりの声質で。
その声に脅えるでも、悪びれるでもなく、あっけらかんとした様子で亜紀は告げた。

「朝、ハルに渡されたのよ。今から食事に行くみたいだし、たまにはこんな格好でも良いじゃない?」

その言葉に、黒は大きく頷いた。…ただし、心内で。
確かにそうだ。三志郎は隠してこそいるが女子なのだし、何より自分の奥さんだ。
可愛らしい格好もとても似合っているし、何より照れてもじもじとしている三志郎は目に楽しい。
しかし、それはあくまでも自分と二人きりであるときに限るのだ。

今、この場には。不壊を初めとする三志郎に好意を持った男性社員が山のようにいるのだ。
そんな人目のつくような場所にこんな可愛らしい格好をした三志郎を晒す等、猛獣の群れに餌を投げ入れるようなものだ。

黒はそう考えながらも、亜紀の言葉に即座に否定を入れる。

「駄目です!三志郎君…申し訳ありませんが、着替えて来ていただけますか?」
「あ、うん。分かった。ちょっと待っててくれよな、黒」
「はい」

黒の言葉に素直に頷くと、三志郎はパタパタとロッカールームまで走って行った。
それを見送りながら、黒は不安そうに呟いた。

「…足、捻りませんかねぇ…三志郎君」
「そんなことより、後でちゃんと言いなさいよ?」
何であの格好が駄目なのか。

そんな亜紀に頷いて、黒はポツリと呟いた。

「久しぶりにデートもしたいですしねぇ…帰りはあの格好で帰ってもらいましょうか…」
「あんた達、本当にいつも幸せそうよねぇ…」

その言葉を拾った亜紀の、呆れたような言葉に、黒は「勿論です」と穏やかに笑んで見せる。

そんな二人のやり取りを、置いてけぼりを食らった不壊が、羨ましそうに見つめていたのだった。




暫くして、スーツに着替えた三志郎が帰ってくる。

「お待たせ、黒!」
「いえ、それでは行きましょうか。…不壊、ファミレスで良いですか?」
「あぁ、俺は何処でも…」

そう言いながら、二人の後ろを付いて歩く。
会社を出ながら、「不壊も一緒に食べるのか?」と、嬉しそうに目を輝かせている三志郎に、黒は複雑そうに返事を返すのだった。

End.

(そんな三人の様子に、ある一部の女性社員が黄色い悲鳴を上げていたのは、三人には関係のないお話)


長い!
ロンドンを変態にしようと思ったんですが(え)さらに長くなりそうなのでやめました。(苦笑)
書きたい筋だけ書いて、それのとおりに肉付けをしてはいけませんね…凄く長くなります(苦笑)

あぁ…せっかく不壊出したのに…あんまり絡まなかったなぁ…残念。

次回で一ヶ月企画はお終いです!
むしろ一ヶ月で終わってないがな!

それでは、少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。

2008/05/08


オマケ

【ロッカールームへ行った三志郎。(肉付けなし)】

その頃更衣室では。

服を脱ぎながら三志郎はこっそりと思っていた。

「やっぱり似合わなかったのかな?」
黒って滅多にそういうこといわねぇもんな。

ズボンをはいて、上を着ようとする。

「あ、さらし…」

巻くの面倒だなぁ。

でも巻く。
そこへ、運悪く(?)ロンドン登場。

「僕としたことが更衣室に財布を忘れるなんてな」
「あ」
「え?」

一瞬、固まった二人。
先に我に返ったのは三志郎。

「何だロンドンか…ビックリしたぁ…」

ロンドンは女子とばれているのであまり気にしない。
が、ロンドンの方は別で。
三志郎の言葉で我に返ると、弾かれたように部屋を出た。

「わ、悪い!三志郎」
「別にいいぜ?」
ってかなんでそんなに慌ててったんだ?

「胸!おまえっ年頃の女が胸を男に見られても平気って如何なんだよ!!」

顔真っ赤。

「?だってロンドンだし」

(ソレは僕なら良いってことなのか?!それとも僕は男として見られてないのか?)

悶々している間に着替えは終わり、更衣室から三志郎が出てくる。

「ロンドン?どうかしたのか??」
「(お前のせいだ!)いや、なんでもない」
「そか、じゃぁ俺、黒が待ってるから行くな♪」

で、合流。

「三志郎…成長してないと思ったが案外育ってたな…(胸とか)」


ロンロンに「胸が育ってた」って言わせたかっただけなんだ



おまけ2。

不壊が三志郎初対面だった場合。(会話のみ)

「営業部の多門さんをお願いします」
「営業部の多聞は2人居りますが、どちらをお呼びしましょうか?」
「えと…三志郎さんを…」
「多聞三志郎は二人おりますが…」
「え゛っっ…えと…眼鏡をかけた…」(これで二人とも眼鏡をかけてたらどうしよう)
「あぁ!分かりました…少々お待ちください」

「あれ?今多聞って…でも見覚えないなぁ…」
「アレは…すみません三志郎君、少しここで待っていてください」

頷いたのを確認して、受付へ。

「あ、黒さん。お客さんです」
「あ、どうも…綾重(あやしげ)ですすみません、昼休み中に…」
「いえ、ただ人を待たせていますので簡潔に」
「それが…書類等の説明もしたいので出来ればどこかに座ってお話したいんですが…」

後は同じ。


黒と三志郎は同じ名前です。だってそっちの方が不壊がアワアワするじゃない!(え)


以上、オマケとは名ばかりの没にした代物でした。



戻る
















































































































+
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ