逆門2
□ソフトパニック!
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満月にはほんの少し足りない月が穏やかに闇を照らす夜。
水を飲もうと廊下を歩いていた黒は、視線の先に三志郎を見つけた。
「三志郎君」
「なんだぁ?くろぉ」
キャラキャラと笑うこの人を、多分、何も知らない人が居たら酷く叱り付けるのだろう。
未成年が酒なんか飲んで!と。
しかし、まぁ。彼はれっきとした成人男性なので、咎められる謂れも筋合いも無いのだが。
今、三志郎は縁側で一人酒盛りをしていた。
毎回毎回酒を買うときには身分証明書がいるので面倒らしいのだが、彼は無類の酒好き。
それくらいの面倒でやめる気にはとても成れそうに無いらしい。
多聞 三志郎。
彼は、黒にとっても、回りの人間にとっても、非常に不思議な人間だ。
年は裕に50を越えているというのに、見た目は精々10〜12歳。
まるで時の流れを受けていないかのような成長の止まりっぷり。
それが外見だけなのかと問われれば、決してそうではない。
普段から良く動く事も関係しているのかもしれないが、彼は体力も黒と同じ…いや、黒よりも有るかもしれない。
数年前に他界した彼の妻はそんな彼を「羨ましいわ」と、穏やかに笑っていたけれど。
「三志郎はとっても魅力的なのよ」と、とても50を過ぎたとは思えないほど可愛らしい笑みで、まるで恋する乙女のように言って見せたのだけど。
矢張り、見る人にとっては気味の悪いものがあるのだろう。
「そんなに飲んでは明日の仕事に差し支えますよ?」
「アハハ、大丈夫だって!オレ、二日酔いだけはしないからさ!!」
ニコニコと笑う彼は、黒にとっては好ましい祖父であるのだが。
「黒、お前が大きくなって…酒が飲めるようになったら、一緒に飲もうな」
「ずっと夢だったんだ」と、明るく笑う彼に、黒は悲しい気持ちになる。
そして、普段からあまり好きではなかった伯父が、さらに嫌いになるのだ。
伯父は、三志郎の息子は、身内であるというのに彼の体質を気味悪がり、出来るだけ交流を持とうとしなかったのだから。
「ええ、必ず」
「だから長生きしてくださいね」そう言ってやれば、三志郎は「勿論」と、嬉しそうに微笑んだ、
「さ、そろそろお開きにするか…黒も早く寝ろよ?」
「はい、お休みなさい、三志郎君」
「おぉ、おやすみ、黒」
徳利とお猪口を片付けながら三志郎は立ち上がる。
そんな三志郎の言葉に頷いて、黒は部屋へと戻って行った。
時刻は、子どもが起きているには遅すぎる、午前0時。
「黒、そろそろ起きないと遅刻するぞ?」
ゆるゆると揺すられて、黒はゆっくりと覚醒してゆく。
そして。
「おはよう、黒。朝飯出来てるぜ?」
「おはようございます三志郎く…ん?」
一体何が起こっているのか、年相応の体つきをしている三志郎を見て、珍しくも大声を上げる黒が目撃されるまで、あと何秒?
多聞三志郎、満月の日には何故か体つきが歳相応になる不思議体質の持ち主である。
ソフトパニック!〜祖父と云う人〜
孫なんだから黒は多少子供っぽくても良いよね?(え)
おじいちゃんになっても三志郎は可愛らしくて元気いっぱいだと信じて疑わない(マテ)
2008/06/28
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