逆門2

□ソフトパニック!
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たまの休み。
三志郎はのんびりと縁側でお茶を飲んでいた。

昼からの酒も悪くは無いが、矢張り酒は風呂上り、月を見上げながらの方が格段に美味い。
そう自分自身に呟いて。

麗らかな日差し、夏の日にしては、過しやすい昼。

何気なく座っていた状態からそのまま体を後ろへ倒す。


気付けば、三志郎はそのまま眠りに入っていた。


ふわりと、鼻先に香る匂い。
その匂いで、三志郎は目を覚ました。

この匂いは。

「…黒、傘持ってったっけ?」

よいしょ、と身体を起こして三志郎は玄関へ向かう。
そろそろ夕立が来るようだし、買い物ついでに黒を迎えに行こう、と。


時刻は、そろそろ就業を告げる、4時。

小学校まで、ゆっくり歩いて20分。充分間に合うだろう、そう頷いて、家を出た。

バッと、小気味良い音を立てて傘の花が開く。
それとほぼ同時に、しとしとと霧雨が降り出した。






「…降って来てしまいましたねぇ…」
「ッチ、傘持ってきてねぇぜ…」

帰りの会の途中で、黒が窓の向こうを見ながら呟く。
その言葉に顔を歪ませるのは、同級生の不壊だ。
どうやら癖毛らしい彼は、湿気によって何時もよりも跳ねた髪を鬱陶しそうに撫で付けている。

そんな不壊に「濡れて帰ればいいじゃないですか」と投げやりに返している黒は、見つめていた窓の外に、見慣れたものを見つけた。

「…あれは…」

最近では使われることも少なくなった大き目の和傘。
それを指して、こちらへと歩いてくる人。

「三志郎君…?」

もしかして迎えに来てくれたのだろうか。
そんな淡い期待を抱きつつ、黒は帰りの会が早く終わるのを願った。





「黒」校門の前で、笑顔で名を呼ばれる。
その声に、黒は同じく笑顔で答えた。

「三志郎君、迎えに来てくださったんですか?」
「おう、雨が降る気配がしたからな、傘、もって行ってなかっただろ?」

頷く黒に、三志郎は左手に持っていた傘を差し出す。
それを受け取って、そのまま三志郎の傘の中に入る。

首をかしげている三志郎に小さく笑うと、黒は自分の傘を思い切り後ろに居た不壊に投げつけた。

「それでも差して帰ったら如何です?不壊」
「あぁ…わりぃな…じゃなくてだな!危ねぇだろうが!」

ギャンギャンと喚いている不壊たちを見て三志郎はのほほんと笑っている。

「友達に傘を貸してやるなんて優しいんだな、黒」

それは違うと、思わず不壊は叫びそうになった。

「それじゃぁ、帰りましょうか?おじいちゃん」
「あぁ、今日は帰りに買い物によっても…って!!!」

「おじいちゃん」その言葉に、不壊は驚いたように目を開く。
等の三志郎はといえば、何か思うことがあるらしい、小さくフルフルと震えている。

「そりゃぁ同い年の奴に『おじいちゃん』なんて呼ばれたらなぁ…」と、何も知らない不壊は呟いた。
そう、彼は何も知らないのだ。
三志郎の実年齢も、その言葉の持つ意味も。

「く、黒…!いま、今「おじいちゃん」って…!?ついに呼んでくれるのか?!」
「えぇ、おじいちゃん」

「もっと呼んで!」と、目を輝かせる三志郎に、黒は「いくらでも呼んで差し上げますよ」と微笑む。
後ろで固まっている不壊をみて、至極楽しそうに笑みながら。

「ですが、家では何時も通り「三志郎君」と呼ばせてくださいね?」
「お、お出かけ用の特別な呼び方だな?」
「えぇ」


楽しそうに笑いあいながら、二人は買い物へと向かう。


雨足は、徐々に強くなっていった。

ソフトパニック!〜祖父と忘れ物〜



不壊と三志郎を絡ませたかったんだけどな…(ガクリ)
黒が体操服を忘れる話にしようと思ったんですが、話が上手くまとまらなかったの(苦笑)

三志郎は泉の完璧なる趣味により和風なイメージ。

2008/07/03


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