逆門2

□ソフトパニック!
6ページ/9ページ



どうしてでしょう。
考えれば、当たり前の事だったのに。

私は、あなたとずっと一緒にいられるのだと、根拠もなくそう思い込んでいた。



いつか、こんな日がやってきたって可笑しくはなかったのに。


「三志郎君!」

何時もよりも少しだけ早く起きた日。
水を飲もうと台所へ向かった黒は、何かが落ちるような、鈍い音を耳にする。

それが、居間の方だったなら、「何か落ちたのでしょうか」ですんだ。
縁側であったなら「猫でも入りましたかねぇ?」ですんだ。

だが、それだけでは片付けられそうに無い、嫌な予感がした。
音が聞こえてきたのは、他でも無い、三志郎の部屋だったのだから。

向かう足は速くなり、ついには走り出す。
大して離れていないはずの距離が、遠く感じた。
遠慮無く襖を大きく開け放てば、そこには。

一番有って欲しくなかった現実が、そこに有った。


三志郎が、苦しそうな顔で、ベッドから落ちていた。


そこで、冒頭の黒の叫びに戻る。

直ぐに側に駆け寄る黒は、それでも決して我を失いはしなかった。
今取り乱した所で、三志郎が元気になるわけではないのだから。

居間へと走る。
電話を取って、救急車を呼んだ。

はやく、はやく。

祈るように心中で呟きながら、黒は三志郎に向かって呼びかけ続けることしか出来ない。

「三志郎君、目を開けてください!」

呼吸をしていないわけではない。
しかし、その呼吸は今にも消えてしまいそうで、体もぐったりとしている。

外に独特の高いサイレンが響く。
その音は家の前で止まり、叩かれた、ドア。

「漸く来ましたか…」

待ち望んだようにそう呟いて、黒は玄関へと向かった。

「すぐ戻ってきます、待っていてくださいね」

そう、三志郎に声をかけて。




「過労ですね」

その言葉に、黒は大きく安堵の息を吐いた。
過労といえども立派な病気なのだが、不治の病ではないことが、彼を酷く安心させたのだ。

「入院する必要はありませんが、暫くは無理をさせないことです。良いですね?」
「はい、ありがとうございました」

三志郎が目を覚ますのを待ちながら、黒は医師の言葉に頭を下げる。
そして。

「…ん…?」
「目が覚めましたか?三志郎君」

薄く目を開いた三志郎に、黒は出来る限りの笑顔で声をかけた。
――そうでもしないと、らしくもなく泣き出してしまいそうだったから。

「ここ…病院?」
「えぇ、過労だそうです、暫くは無理をしないようにといわれましたよ」

不思議そうな顔をする三志郎に黒は苦く笑いながらそう告げる。
その言葉に「そっか」と三志郎は淡く笑んだ。

「ごめんな、黒」
「暫くはお酒も禁止ですよ」

謝る三志郎に「いいえ」と告げながらも落とされた言葉に、三志郎は勢いよく身体を起こす。

「そりゃ無いぜ黒!そろそろ庭の紫陽花が綺麗に咲くのに!!」
「また倒れては大変ですからね、駄目です」

にっこりと笑う黒に、三志郎は目を潤ませながら「黒の鬼〜!」と喚いた。
そんな三志郎に、黒は思うのだ。

元気になってくれてよかった、と。




気恥ずかしくていえませんけどね、あなたにはいつでも笑顔でいて欲しいんですよ。
なんていったって、私はあなたが大好きなんですから。

だから、ずっと元気でいてくださいね?
三志郎君。
ソフトパニック!〜祖父と病院〜



いくら若く見えたって三志郎はおじいちゃんなんだからこんなことがあってもおかしくは無いよね。と云うお話。
病院ではこんな会話があったとかなかったとか。

「先生、急患です!」
「分かった…って、子どもじゃないか。子供は小児科に連れてってよ…」
「何言ってるんですか先生?!多門さんですよ?」
「多聞?それがどうかしたのか…?どっか偉いとこの息子さんとか?」
「…そういえば先生は新しく転勤していらしたんでしたね…良いですか?多門さんはこう見えて50代です!」
「…ハァ?!そんなことあるわけ…」
「ありえなくても事実です!良いから早く診てください!!」

三志郎は50代には見えないからね。主治医付けとかないとこんなミスもありうるよね。(笑/えない)

2008/08/19


※ブラウザバックでお願いします。


+
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ