逆門2

□ソフトパニック!
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彼は言った。申し訳無さそうに眉根を下げて。

「ごめんな…黒」

少年は答えた。
こちらはと云うと、嬉しそうな笑みを浮かべて。

「いいえ、大丈夫。問題はありませんよ、三志郎君」

彼は今、少年の腕の中に居た。
いつぞやの満月の日同様、良くは分からないが、彼は今、名を名乗らなければ分からぬほどに外見年齢が下がっている。

そう、例えるならば―――入園したばかりの園児と、見紛うほどに。

本日、新月の日。

勿論、こうなる事を予め知っていた三志郎は修に言って休日を取っている。
最も、休日を取るまでもなく、過労で倒れた三志郎を職場に来させるはずがないのだが。

「それにしても…本当に不思議な体質ですねぇ…」

小さくなった三志郎を抱えながら黒は小さく笑う。
そんな黒に三志郎は苦く笑うと、「もうかれこれ50年位前の話になるけど」と前置きをしてポツリポツリと話し始めた。

いまの自分の体質の原因となった出来事を。





三志郎の家系は、代々「妖」と呼ばれるものが視えると云う少し変わった家系だった。
視えたからと言って、何か特別な事をするわけではない。
ただ、人と遊ぶのが好きな妖とはいつだって一緒に遊んでいたし、あまりに身近な彼らは、存在して当たり前になっていた。
「妖は友達」三志郎はそう思っていたし、彼と共に在った妖たちとて、彼を「自分たちと遊んでくれる人間」程度には三志郎を慕っていた…はずである。

その日も、三志郎は遊びに来た妖と一緒に遊んでいた。

その、途中で。

「人に悪さする化け物め!」

どうやら妖たちを払いに来たらしい人間に、間違って術を掛けられてしまった。

「うわぁ?!」

その術は、本来ならばその場所へ妖を永久封印する、強力なもの。
しかし、三志郎が人の子だったためなのか、それとも何か耐性があったのか、それは失敗した。
三志郎は動くことが出来たし、身体に違和感も感じられない。

…否、感じられないと思っていた。

しかし、それは三志郎の思い込みであったのだと、彼が知るのは、数日後、新月の日。

「三志郎?!!」

驚くような母の声、思うように動かない自分の体。
三志郎は、言葉を操るのがやっとと云う様な赤子になっていた。

このとき初めて、三志郎は数日前に起きた事を母に話したのだった。





「――と、云う訳でだな。うっかり妖用の術にかかっちまったんだよ」
「それは…災難でしたね」

話を聞き終えた黒は、そう言う他に言葉が見つからなかった。

三志郎はといえば、その時のことを思い出しているのか、カラカラと愉快そうに笑っている。

「あの頃はただただビックリするばっかりでさぁ、どうしようかと思ってたら、母ちゃん、なんて言ったと思う?」
「何て言ったんですか?」
「『いいわねぇ三志郎、羨ましいわ』だってよ」

その言葉に、思わず黒の目は点になった。
そして、思うのだ。

(この体質を受け入れる三志郎君は凄いと思っていましたが…一番凄いのは曾お婆さんでしたか…)

まさに、『この親にしてこの子あり』である。

ソフトパニック!〜祖父の不思議〜



やっと三志郎の体質の理由が。
本当はもうちょっとひねるつもりだったんですがねぇ…
ある意味最強御母堂様(笑)

次回で漸く終わりです。

可笑しいな、一週間で終わるはずだったんだけどな(笑)

2008/08/30


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