レポートの山

□化け物何て呼ばないでよ、見た目はあんたらと同じだろ
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『金晴眼・・・何て不吉な』


『病をばら蒔いたんは、テメェだろ?!とっとと失せろ!』


『お前など、お前など!』




















































「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

最悪だ。今更になって、あんな夢を見るなんて。
意識が落ち着いてきた所で、ふと、気が付いた。自分が寝かされているのは布団の中。私が最後に見たのは何処までも続く海だったはず。


「よう、目ぇ覚めたか」


襖が開き、声のした方を見ると、紫の装束を纏った銀髪の男がいた。


「浜に打ち上げられてたんだぜ。大丈夫か?」

「あ、あぁ。大丈夫だ」


海に落ちた私はどうやら男のよく行く浜辺に打ち上げられたらしい。よく見れば私の今の装いは、着馴れた旅装束ではなく、明らかに女物の着物。まさかこの男が着せたのか?
そして、ふと気付く。今の私は顔を隠す頭巾も面も付けていない事に。


「っっ!!」

「あ、おい!待、ぶっ!」


掛布団を男の顔に向かって投げ飛ばし、怯んだ隙に外へ飛び出した。




見られた。




見られた。




汚レタ、輝ク私ノ目ヲ




何故かは判らない。けど、私を助けてくれたあの人には、嫌われたくないと思ってしまった。
それにしても・・・


「此処は、何処だろう・・・」

「俺の城の中だ」

「そうか、城・・・うわぁ!?」


後ろを振り向けば、先程布団をぶつけたあの人で。反射的に駆け出そうとしたら、腕を掴まれ引かれた。


「随分と失礼な奴だな、オイ」


抱き寄せられ、たくましい腕の拘束から逃れようとして体を捻ると、いきなり耳元で囁かれ、顔に熱が差した。
私が大人しくなったのを良いことに、彼は腕をほどき私の手を引いて、縁側に座らせた。


「何で逃げた」


有無を言わさぬ物言いに、伏せていた顔を反射的に上げた。
男の隻眼は真剣な物で、一切の言い訳も許しそうにない。そんな眼をされたら、本当の事を言わないと失礼ではないかと、思えてしまえる。


「慣れて、いないんだ。誰かに、顔を見られる、事に」

「頭巾と荷物の面は、顔を隠す為、か?」


コクリ、と頷けば大きな手が私の頭を優しく撫でた。


「勿体無ぇ。せっかく綺麗な色した眼なのによ」


初めて言われた。
今まで、私の顔を―――――強いて言うなら眼を見て、気味悪く思わない人はいなかった。なのに、この人は・・・。


「っぅえ、っく、」

「お、おい・・・、泣くなよ」

「だって、っん、今までいなかっ、たんだ。私の眼を見て、綺麗だ、って、言った、人、は」


ボロボロとみっともなく涙を流す私をあやすように、彼は私を抱き寄せて、頭を撫で、背を擦ってくれた。
その時だ。私の背を走った悪寒。この感覚は、妖怪に出会った時に感じる物と同じ。


「っち、来やがったか」

「え・・・」





ドオォォンンン




「アニキ!濡れ手共があの女を寄越せって!」

「ハッ!笑わせんな。海の亡霊なんかにやれっかよ!」

未だにしがみつく私を、彼はやんわりと離した。


「わりぃな。行かなきゃなんねぇんだ」

「私が狙いなら、私が行けば良い。これ以上、迷惑は」

「迷惑かどうかを決めんのは、お前じゃ無ぇよ。大人しく守られとけ」

にっ、と笑って銀髪の彼は左眼を隠す眼帯に手をかける。そして、勢いよくはぎとった。

「あいつ等にゃあ、教えてやらにゃあならねぇ。鬼の領海に手を出したらどうなるかをな」


眼帯の下に隠された瞳が開く。
現れたのは、深紅の瞳。そして、背を走る悪寒。


「っ!」

「まだ、名乗ってなかったな。俺の名は長曽我部元親。鬼ヶ島の鬼てぇのは、俺の事よ」



化け物何て呼ばないでよ、見た目はあんたらと同じだろ





「知ってるか?金晴眼は強い霊力と黄金律を持った人間の証なんだとよ」

「黄金律?」

「完全な左右対称の体の事だ。黄金律の人間は俺たちゃ妖怪の万能薬だしな」

「!!」

「バーカ、テメェは喰わねぇよ。なんてたって、鬼の宝だからな」


そういって、私の額に唇を落とした元親は、颯爽と海へと向かっていった。


(おう!今戻ったぜ!)
(け、怪我してるじゃないか!今、手当を・・・)
(こいつで十分だ(ちゅっ))
(な、な・・・!)







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